日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 043

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次の日曜日、王は珍しく自国の首都圏で時を過ごしていた。

ダイアンのたっての希望で、彼女の剣道場を訪れていたのである。

無論、何から何までうるさいほど面倒を見てくれる。

ダイアンからすれば、うれしくてたまらないのである。

さまざまな用具にしても、この日のために、わざわざ日本から取り寄せておいたのだ。

用意の剣道着を着けてみると、自分の見立てた黒革胴が実に良く映えて、若者は堂々たる剣士になった。

一瞬、見惚れてしまったほどだ。

この若者は正規の剣道は全くの未体験だと聞いており、是非にもこの手で、素晴らしい練磨の道をお伝えしたいものと常々思っていたところである。

竹刀の握り方から始まって、この道にとって基本的な要件である、眼の注ぎ方、意の配り方、足の踏み方などさまざまに説明しながら、わくわくしてくる気持ちを抑えきれない。

ほかの事ではこの方に何一つ勝るものはないけれど、この道ばかりは絶対に私の方が上なのだ。

全日本制覇のキャリアを誇る師匠をさえ凌ぐ技倆を持っているのだから。

懇切に教えて差し上げなければならない。

ところが、案に相違して意外な展開になりつつある。

試しに、かかり稽古の真似事をしてみると、こっちの打ち込みが悉く外されてしまう。

無論最初の内はこちらも手を抜いていたのだから、外されて当然なのかも知れないと思いつつ、次第に本気になって打ち込んでみるのだがとにかくかすりもしない。

しまいには、相手は竹刀を右手一本でだらりと下げてしまって全く隙だらけに見えるのに、遠間から踏み込んでも一切下がろうともしないし、近間に入って激しく打ち込んで見ても軽々と外されてしまうのである。

相手は息も乱さず、余裕綽々と言った風情で悠然としている。

かと言って、打ち返してもこない。

逆にこちらの息が上がりそうになってしまい、一息入れながら、何故打ち返さないのかと聞くと、打ち返しても良いのかと聞き返される始末だ。

打って良い場所は教えてあるのだから、無論打って良いのだと言ってから、もう一度かかり稽古を始めた。

今度は、こちらも最初から本気だ。

気合を込め、踏み込みも鋭く、激烈な打ち込みを繰り返したが、結果は全く同じだった。

相変わらず相手は軽々と身動きしてかすりもしない。

最初のころはその足捌きも多少ぎこちなく見えたのだが、それも直ぐにこつを飲み込んだらしく、素晴らしいものに変わって行った。

改めて気息を整え、思い切り打ち込もうと思った瞬間、すかさずその起こり頭を鮮やかに籠手を取られてしまった。

危うく竹刀を取り落としそうになったが、気を取り直して痛烈な突きを入れようとした途端、今度はものの見事に面を取られた。

きな臭いものが鼻の中を突き抜け、目も眩むような闘争心が沸き起こり、あとはもう無我夢中で連続技をかけていったが、若者は僅かの身動きだけで軽々とかわしてしまう。

結局、どんなにもがいても一本も取れないのだ。

「それまでっ。」

息が上がり、足元もおぼつかなくなってきたころ、やっと師匠の声で苦しみから解放された。

霞む視線の彼方で、憎い相手が悠々と蹲踞して待っている。

やっとの思いで蹲踞して礼を返すことは出来たが、己れの手で面を外す気力すら残っていず、師匠の手を借りる体たらくだったのだ。

鍛えてあるつもりの体が鉛のように重く感じられ、まるで自分の体じゃ無いみたい。

こちらは全身汗みずくになっているのに、見れば今面を外したばかりの相手は、ほとんど汗も見せずにけろりとしている。

情け無いことにこっちは、メアリーが慌てて用意したスポーツドリンクを飲んで回復を待たねばならぬほど、疲れ果ててしまっていたのである。

シャワーを浴びてから、約束のランチをご一緒すべくその部屋に足を向けると、若者はメアリーのお給仕で悠々とお茶を喫していた。

席についてはみたが、ボリュームたっぷりに用意させたサンドイッチとおにぎりがどうしても喉を通らない。

全く、胃が受け付けてくれないのだ。

仕方が無いから、レモンティにお砂糖を多めに入れてゆっくり啜っていると、やっと普通に話せるまでに回復してきた。

目の前の若者はとっくに自分の分を平らげてしまって、こちらの手元を物欲しそうな目で見ている。

こういうところは、全く無邪気な少年の顔を覗かせてくれるのだ。

何だか嬉しくなってきて、笑顔で頷いてあげるとあたしの分まで遠慮なく食べ始めた。

ほんとに美味しそうに食べながら、「この握り飯旨いな。」なんてつぶやいている。

「そのお米、日本産でございますのよ。」

秋津州商事の経営になる大型の店舗では、日本産の食材も数多く扱っているのである。

「ほう、どうりで旨いと思ったよ。」

しきりに感心してらっしゃる。

「やっぱり、陛下のお口には日本産の食味がぴったりなんでしょうねえ。」

「ふむ。やはり、秋津州の米は味が落ちるなあ。」

「ふふふ、それはお分かりになるのね。」

「あはは、それぐらいは分かるさ。」

「日本から種籾(たねもみ)をお入れになればよろしいのに。」

もっとも、日本の種籾をそのまま作付けしたところで、うまく生育するとは限らない。

「先々になれば、考えて見るか。」

「それとも、わたくしどもが手がけている種子をお試しになるのもよろしいのでは?」

「ああ、あの種籾が取れないヤツか。」

それは、一世代だけの寿命しか持たない特殊な品種で、購入しても保存しておくことを許さない条件で販売されているものだ。

米国ではその種籾を購入した農家が、条件に背いて保存しようとしたことが明るみに出て、盛んに訴訟騒ぎが起きていると言う。

発売元のリストには、無論コーギル社を筆頭にずらりと穀物メジャーの名前が並ぶ。

「はい、病気にも強くて、収穫率も高うございます。」

「どんなに良いものでも、種籾がとれなくてはな。」

とにかく、作付けして生育したその米は、収穫しても一切発芽することの無い特殊な品種なのである。

「でも、毎年購入なされば問題は無いと存じますが。」

「ふむ、毎年購入して作付けしてるうちに、自前の品種の種籾が入手出来なくなってしまったら、もうどんなにひどい条件だろうとダイアンたちから買わざるを得なくなると言う筋書きだな。」

若者は、にやりと笑って素っ破抜いてしまう。

「でも、あたくしどももビジネスでございますから。」

「うん、それはそうだな。」

「勿論、陛下から代金をいただこうとは考えておりませんから。」

「まあ、そなたがコーギルを仕切ってる間だけはいけるかも知れぬな。」

ダイアンがいなくなれば、とてもそんな話は当てにはならないと言わんばかりだ。

「あら・・・。」

「穀物の種子などと言うものは、子々孫々まで自前のものを残してやらねばならぬものさ。」

「でも、限られた耕作地で効率良く収穫する技術も必要でございましょ。」

「ふむ、その前に我が秋津州は、百パーセント自給を確保することの方が大事だ。」

「それに肝心の食味が・・・。」

「味も大切だが、その前に最低限の必要量を確保することの方がもっと大事だ。」

他国からの購入が難しい場合、いくら美味しいものでも、量が不足すれば不足した分だけ確実に餓死者が出る。

結局、味よりも量を確保することの方が、余程重要な要素なのである。

「それはそうでございましょうね。」

若者の考え方は充分理解してる心算だ。

「それに、秋津州では米は八割がた陸稲で、残りも不耕起栽培だから、もともと収穫率は良いわけが無い。少しずつ工夫はして行くつもりだがな。」

「それでも、食糧の輸入関税はおかけにならない・・・。」

安い輸入食品が非課税のままどんどん入ってくれば、秋津州農業の競争力はほとんど失われてしまう。

「ふむ、これも国民自身が悩んで工夫してゆくほかはあるまい。」

「はい。」

「次に来る問題は、限られた農地しか持たないままで人口が増えて行くと、農家が相続を繰り返して行く過程で、所帯当たりの耕地面積がどんどん狭くなってしまうことだ。」

耕地面積が狭くなれば、生産効率が悪くなりそれだけ競争力が落ちてくる。

「そう言えばお国の慣習法では、ほぼ長子相続でございますよね。」

「うむ、次男三男は冷遇されることになっておる。」

「陛下がこのたび大規模に開拓なさった農地にも、限りがございますものね。」

「うむ、ざっと農民二十万で飽和状態がくるであろう。」

現在の秋津州には、三万七千の農民が棲み暮らしていることになっている。

目下のところの若者は、国民に対して十二分に補助金を支給しつつ、数年の内に新たな開拓農地が豊かな実りを見せることを楽しみにしているのだろう。

この者たちには、王が開拓した農地のおよそ十分の一を割り当ててあり、残りは今のところ王の所有と言うことになっており、その広大な王の農地は、王自らが軍を率いて耕作しながら、次世代の農民が生まれてくるのを待つのだと言う。

「そのあとは、いかがなさいます?」

農民数が二十万に達し、割り振ってやれる農地が無くなってしまったらどうなのか。

「その前に工業立国が成るかどうかが分かれ道になるだろう。」

「人口が順調に増加していくと考えて、何年ほど先のことでございましょう。」

「分からんなあ。その前にどこかの国が攻め込んで来て、又皆殺しの目にあうかも知れぬからな。」

「もう、そんな愚かな国はないでしょ。」

「いや、ワシントンではいまだに我が国に対する核攻撃を論議しておる。」

「おほほほ、まさか。」

「うむ、そのまさかであって欲しいものだ。」

「でも、現在の秋津州には官民合わせて数百人の同胞居留民がおりますもの。」

今では、米国メディアの関係者だけでも二百人近く、タイラーの属僚だけでも百人は下らない。

詰まり、現在の秋津州に核ミサイルを撃ち込めば、少なくとも三百人以上の米国人が犠牲になってしまう。

自分が今得ている情報では、自国政府がここへ核ミサイルを撃ち込むなど考えられないのである。

だが、若者がこう言っている以上、改めて、調べられるだけは調べさせてみよう。

「うむ、そう願いたいものだ。」

この数百人の米国人が、人間の盾として有効であって欲しいとは思うが。

「陛下が以前仰っておられた、一人でも多くの国民を救うことが為政者の責務なんだと言う理論でございますね。」

為政者たるもの、ときに非常の決断を迫られることがある。

大統領が本国に暮らす三億の市民を救うために、少数の居留民を犠牲にする可能性も否定出来ない。

「伝染病の流行と言うこともあり得る。」

「ほんとに、明日は何があるか分かりませんものねえ。」

「例え人口が一千万人になったとしても、私は王としての責めを果たさねばならぬ。」

「やはり、砂漠地帯の譲渡をお受けになるご予定なのでしょうか。」

降雨量の少ない砂漠地帯を領土として確保し、豊かな農耕地に変えて行く方式のことで、目の前の若者なら、膨大な水と土壌を搬入することも軽々と出来てしまうのだろう。

ただ、現実には王の荘園から大量の穀類が搬入され、低価格で輸出されているほどであり、今のところ食糧不足の不安など全く無い。

「それも相手のあることだからな。」

「それは、あくまで相手国の主権を重んじると言うことですわね。」

「まあ、それも奇麗事に過ぎるな。」

「あらあら。」

「背にハラは代えられない場合、国民がどう判断するかだ。」

「それじゃ、国民の意思によっては、陛下は他国を侵略することも有り得ると仰るのでしょうか。」

「為政者としては、国民の食を確保することは最低限の務めだと考えておるが、そのための手段はさまざまにある。」

「経済取引としての購入とか・・・。」

「売って貰えない場合もあるからなあ。」

「米国政府が輸出禁止に踏み切っても、コーギル社の外国籍企業のルートだってございますわ。」

現にその傘下には、コーギルの名前を全く伏せたものもある。

「いや、米国が本気であれば、秋津州の近海は全て実力で封鎖されて、小型漁船でさえ出入り出来なくなってしまうだろう。」

コーギルの口座など、世界中で凍結されてしまうかも知れない。

「そうですわよね。今でもあちらこちらでやってますものねえ。」

「まあ、現状では食糧まで締め上げてはいないが。」

「じゃ、その場合には秋津州の工業製品や一次産品の出荷も、出来なくなっちゃうわけですわね。」

「そうなるだろうな。」

但し、現実の秋津州の実力から言って、そんなことをすれば只で済むとは思えない。

「特殊原動機などの工業製品も輸出出来ないとなったら、食糧の購入代金の支払いも出来なくなっちゃいますわね。その場合はどうなさるおつもりなんでしょう?」

「泣きべそをかきながら、滅んで行くことになるかな。」

「陛下には似合いませんわよね。」

「しかし、我が国が弱ければ滅び去るほかはあるまい。」

「でも、実際の秋津州は今では断然第一等の強国ですわ。」

「もし、そうであれば、どこの国も無謀な敵対行為は取れないことになるだけさ。」

「そうなると、やはり軍事力は必要でしょうか。」

「そこらじゅうに泥棒や強盗を働く国があって、それを取り締まる警察力などどこにも無い以上、自らの国は自らの手で守るほかはあるまい。」

「あとは、国際世論を味方に付けることですわね。」

「うむ、あくまで補助的な役割としてだがな。」

「あら、国際世論は侮れませんわ。」

「別に侮るつもりは無いが、決定力に欠けることは確かだろう。」

「実際、国際世論が期待できるほどのものなら、チベットなんかもあんなひどい形で併呑されてしまうこともなかったでしょうからね。」

「逆にチベットの方が圧倒的に強ければ、中国の西側半分くらいはチベットが併呑していたさ。」

「実際そういう時期もありましたわよね。」

「我が秋津州は一千年以上にわたって国を守って来た。今後も守り続けるだけさ。」

「去年までこの陸地に暮らしたのは、秋津州人だけですものね。」

「今では、百八十カ国近くの人が暮らしておる。」

「まあ、そんなに。」

「段々難しい問題も増えるだろう。」

「文化の違いもございますしね。」

「そういえば、剣道の道場などと言うものもなかなか珍しいものかも知れぬな。」

「あ、先ほどはお稽古ありがとうございました。」

「しかし、そなたの技術には驚いたよ。」

「でも、一本も取れませんでしたわ。」

「お望みとあらば、次ぎは存分に打たれてやっても良い。」

「まあ、悔しい。でも先生も神業だと仰ってましたもの、仕方ありませんわ。」

「わたしのは、本能で動いてるだけだから。」

「その自然の身体能力がとても素晴らしいと存じます。」

「もっとも、ぼんやりしてたら十四のときにとっくに死んでおる。」

事実若者は、荘園での戦闘で数限り無い接近戦を勝ち抜いてきたからこそ、今も生きていられるのだ。

「あ、陛下は実戦の体験がおありだったのですわね。」

「うむ、殺さなければ殺されてしまうのが戦争であることを経験した。」

「今度の戦争では、ご自分で直に手を下して敵をお倒しになったことは?」

「うむ、敵が脆弱であったからその必要は無かったが、これがもし強敵であったら、敵の本拠に突入して直に手を砕いて闘っていたかも知れんな。」

「まあ、恐ろしいこと。」

「うむ、恐ろしいことだ。しかし、反撃しなければ殺されてしまうしな。」

「ほんと、戦争は嫌ですわ。」

「わたしも戦争は嫌いだ。殺すのも嫌だし、殺されるのはもっと嫌だ。」

「人類は、もう何千年も戦争を繰り返してきてますものね。」

「うむ、今でもそこらじゅうで戦っておる。」

「そうですわねえ。」

「これからは、テロリストの動きも要注意だ。」

秋津州は爆発物と銃の持込を禁じており、この点では鉄壁のチェック体制を布いている上、今では、侵略軍の持ち込んだ武器類も全て廃棄処分を完了している。

かつて一部の国の外交団が、銃を隠し持ったまま船で入国しようとした例はあるが、即座に摘発してその上陸を断固拒否した。

その国ものちに公式に謝罪の意を表してきたので、その後の入国は許可してはいる。

最近では、海から入ってくる銃器類は入港の前に領海内で摘発し、問答無用で追い返してしまうことが知れ渡り、隠し持ったまま入国しようとするケースは、ほとんど見られなくなってきている。

「対策は大丈夫なのでしょう?」

「爆発物や銃器の持ち込みは防いでるつもりだが、とても万全とは言えないな。敵はあの手この手でくるだろうから。」

「怖いですわねえ。」

「病原菌キャリアの入国も怖い。例えば天然痘とか。」

「何とかならないものでしょうか。」

「かえって怖がらせてしまったかな。」

「ふふふ、ただ怖がっていても仕方がありませんものね。」

「うむ、今日は良い休日であった。」

「はい、道場の方へも又のおいでをお待ちしておりますわ。」

「次は甚三たちにもやらせるとするか。」

「大歓迎ですわ。早速用具一式取り揃えてお待ちしております。」

働き者の若者は、このまま荘園に向かう予定になっていると言う。

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  1. 2005/11/04(金) 03:47:24|
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