日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 045

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五月一日、日本では、年初に成立していた特殊高機能ヒト型ロボット対策法が施行されるに至った。

この法の定める特殊高機能ヒト型ロボットとは、無論秋津州のヒューマノイドを想定して規定されたものであり、その要件として、人間との会話機能、そして人間並みの容積と機敏な運動能力を持ち、早足以上の二足歩行を余裕を持ってこなし、水泳や縄跳びは勿論、逆立ちや逆上がりが出来るほどの機能を規定している。

手先の器用さにおいては、生卵を片手で割って目玉焼きを焼くぐらいは朝飯前でこなし、毛筆で流麗なかな文字を書く機能レベルを要するとまで規定していたのである。

また、その貸し渡し事業を行う私企業に対してさまざまな制限を加え、機体の移転や機能面については、その私企業が一切の管理責任を負うことを主軸とする法でもあった。

その制限事項の最大のポイントは、当該企業に対しては、公権力を以ってその納税事務を日常的に管理することが出来るとしており、その企業の恣意的な経理操作を実質的に許さないところにある。

端的に言えば、この企業の中に直接当局が出張することから、それに対して経営全般を公開することになり、この意味では新しいタイプの特殊法人と呼ぶものに変質してしまう。

一部の大企業にあっては、秋津州国王との代理店契約を目指し、活発な動きを見せていたようだが結局は諦めて撤退せざるを得ない。

仮に代理店契約に漕ぎ着けることが出来たとしても、経営の自由度があまりに大きく制限されてしまうことや、各機体を管理するだけでも膨大なコストを要することが大きく障害となったためであろう。

機体の管理に当たっては、特殊な通信技術を持つ秋津州商事だけが、低コストでの完全管理を可能にすることから圧倒的な競争力を持つことになり、そうである以上、自然、この法の対象となる企業は秋津州商事一社に限られることになるのだろう。

また、全くの独占企業が誕生することについては相当な異論が噴出したが、現状では公取委の出番は無いと言われている。


一方のワシントンでは、在韓米軍の駐留継続の方針も固まり、米国主導で世銀やIMFが動き、米国からかって無いほどの大型資金の拠出が発表されて世界中の耳目を集めた。

韓国当局としても、前回以上に厳しいIMFの管理下に置かれることは分かりきっていたが、対外債務の決済能力にも限界が来ている状況では、贅沢を言っていられる場合では無かったであろう。

殊に、日秋両国に対する巨額の債務が大きく影を落としていて、どこかの大国がバックに付いてくれない限り、国家経済の自主的再建など到底覚束ない状況なのだ。

尤も、主に日本が担ってきたこの役割を、米国が肩代わりすることになっただけのことで、それが明らかになるに連れ、韓国市場には僅かながら外国資本の参入も見られ、多少の落ち着きを取り戻しつつあるようだ。

崩壊寸前の韓国経済は、窮屈な米国管理の下で辛うじて踏みとどまることを得たのである。

だが、この間の日秋両国は一切の沈黙を守り、超然とした姿勢を貫き通した。

無論、痛手を蒙る日本企業も多かったが、中でも久我電子工業はサムシン電子への納入実績が飛び抜けており、受けた影響もそれなりに大きいものがあって当然だ。

三月決算を乗り切れないのではないかとの観測が飛び交って、信用不安が高まり、経営危機が一気に表面化してしまったのである。

金融筋にも見放されそうになった三月中旬、米国大統領の突然の辞任のニュースが流れ、米秋間の緊張が劇的に緩和される方向が定まった。

久我電子にとって、このことが追い風になったことも確かだが、その上に百億のつなぎ融資をごく低利で獲得することに成功したことが、大きく流れを変えることに役立った。

少なくともとりあえずの決済は、全てジャンプの必要は無くなって市場の注目を浴びたとき、更に驚くべき裏情報が飛んだ。

秋津州国王から、一千億円の枠組みで信用供与を獲得したと言うのだ。

これを一部金融筋が認めたことにより、久我電子工業を覆っていた黒い雲はたちまち吹っ飛んで、その信用は劇的に回復してしまった。

久我電子は経営破綻の瀬戸際から、不死鳥のように蘇ったことになる。

ただこの時点では、その経営状況は韓国経済の影響をもろに受け続けていたことに変わりは無く、その苦境をしのいでいる内、米国の韓国支援体制が固まり実施の運びとなるや、その業績も又上向いていったことは言うまでも無い。

ただ、三月の経営危機の影響もあって、新卒者の採用を見送らざるを得なかったことから、若干の労働力不足が目立ってきていたところに、大量人員の新規雇用が喧伝され多少のニュースにはなった。

年初に成立していたロボット新法が五月に施行の運びとなることは、当然事前に分かっていたことであり、予定通りヒューマノイドの導入に踏み切ったのである。

それも、導入直後の半年間については無償であったことも明らかにされ、これも秋津州国王からの支援の一端であろうと囁かれた。

この一連の流れから、久我電子工業と秋津州の浅からぬ縁が取り沙汰され、実質的には秋津州の傘下企業であるという声まで聞こえてくるまでになった。

無論久我電子側は、これに対して否定的な態度は一切とってはいない。

一旦紙屑同然になった久我電子株が、今やストップ高を付けるほどで、それに伴いオーナーの娘は取材陣に追われ一躍時の人となった。

各メディアの切り口は、秋津州の王妃候補としてのものであったことは言うまでも無いだろう。

ただ、白人国家群のメディアが伝える王妃候補の一番手には、相変わらずダイアンの名前が挙がっていたことも事実だ。

また、ヒューマノイドの導入については、久我電子だけが大きく話題を呼んだが、全く報じられないところで、ひっそりと配備されたケースも存在した。

神宮前の株式会社秋津州商事と銀座の立川商事が、その隠れた配備先だ。

五月に入って一週間ほどの間、クラブ碧では新たなホステスが次々と客席に出て一段と活気を呼んでいたのである。

二十歳前後の外見を具備するこの者たちは会話能力は当然ながら、全員が素晴らしいプロポーションと美貌を具え、その上優雅な挙措を持つものばかりで、当初期待した以上の戦力に育ちつつあり、ここのところのママは、これ等従順な「従業員」たちの衣装を買い揃えることに熱中しているらしく、肝心の若者が久しく顔を見せない寂しさを密かに紛らせていたのかも知れない。

ただ、神宮前のアドバイスで用意した衣裳部屋が、みどりが当初思っていた程には広過ぎないことを悟らされる結果にはなった筈だ。

しかも、みどりの住居の隣に同等のスペースの部屋が用意され、新人たちを住まわせることになっており、一見社宅のようなこの部屋も、経理処理上は機材収納のための倉庫と言う扱いになるのだろう。


五月の初頭、秋津州では全ての学校が未だ長い春休みの最中で、全ての学童が弟妹たちの子守や農作業の手伝いに勤しんでいた。

少しでも役に立つほどの子供は、皆忙しげに家の手伝いをしており、およそ六歳以上の者で、ただ遊んでいると言う姿は見ることが無い。

全ての所帯が家族総出なのである。

陸稲の直播き作業はとうに一段落し、冬越しで水を張ってあった不耕起法の稲田の作付け作業にも目処がついている上、昨年の十月に入植して来た農民をはじめ、若者の率いる大勢の兵士たちが大働きに働いて、多様な開墾作業にも目鼻をつけつつあった。

かつて若者は、岩盤を掘削したあとに大量の土壌を搬入して来たが、実は全農地の九割以上がこれなのだ。

若者は、この農地開墾と利水事業のために日々真っ黒になって立ち働いており、その労苦が報われる日も近いと報じるメディアも多く、あとは、日照時間や降雨量が最も気になるところだ。

しかもこの国では全ての学校に夏休みは無く、次の農繁期の秋に長い秋休みが待っていると言う。

詰まり、学童の生活も全て農作業を中心に回っていることになる。

幼い者も全て労働力とみなす現状に接して、メディアの評価も大きく分かれた。

児童の人権をないがしろにするものとして、その政策を大声で非難する論調があるかと思えば、健気に家の手伝いに精を出す子供たちの姿を、しごく当然とみる論調もあった。

メディアの切り口で、一部面白い表現をするものもあって、殊に日本で話題を提供することになる。

不思議なことに、秋津州には不登校だとか引きこもりだとか言う者は、只の一人も見かけないと言うのだ。

ニート(NEET)など全くいないと言う。

常に飢餓の恐怖に怯える世界では、引きこもりや不登校などやっているひまが無いのだ。

結局、王の目指す食糧自給の重要性が国民に浸透し、殊に青少年の意識がそこに集中していることがその理由なのだろうが、いかなる批判を浴びようと、喰う事は人間にとって必ず必要なことであり、食糧を確保しようとして目の色を変えるのは、どんな高尚な理論も踏み超えてしまう基本的な本能なのである。

中でも若者が真っ黒に日焼けするほど、日々農作業に励んでいたことは確かだ。


その後、五月も中旬になってから、外国人を巡るある事件が突如表面化した。

NBSの男性職員が重傷を負って入院していたものが、回復を待って改めてその身柄を拘束されたと言うのである。

拘束したのは、首都の一郭を管轄する若衆宿だ。

尤も、拘束などと言ったところで、実際は己れの部屋で禁足処分になっただけのことであり、身元引受人のビルが禁足期間の全ての責めを負うこととされた。

肝心の身柄拘束の事由はこうだ。

NBS職員の白人男性二十八歳が、ブルキナファソ(アフリカ北西部)の女性外交官に、性的な行為を為さんとしていたところを、若衆宿の構成員が制止しようとしてその白人男性を殴り、鼻骨を折る重傷を負わせたのだ。

ことが起きたのは夜間の一般路上である。

役目によって巡回中だった秋津州人男性は、十六歳と二十二歳の二人で、直接白人男性に傷を負わせたのはその内の若い方であったと言うが、負傷した白人男性が二メートル近い巨漢で、それを素手で殴って傷を負わせたのは、百六十センチそこそこのひ弱そうな少年だ。

支局長のビルが事情を知るのはその若衆宿に着いてからのことだったが、この国では若衆宿が警察機能と裁判機能を果たしており、ビルにしてもその実態を改めて実感することになった。

早速当人に問いただすと、酔った勢いで見知らぬ黒人女性に不埒な振る舞いに及んだことを現に認めており、当人が負傷して入院した際には、単なる諍いによって負傷したものとばかり思っていたビルは一瞬で青ざめてしまった。

秋津州ではこの種の犯罪は、既遂であれば間違いなく重刑だと聞いていたからである。

未遂であったにせよ、とてもただで済むとは思えない。

今後開かれる罪状審議の場には、最大十名まで被疑者を擁護する者の同席を許すと言われ、とりあえずその開催時期を延ばしてもらうべく交渉しつつ、米国代表部のタイラーにも連絡を取り、急遽本国から弁護士を呼ぶことにした。

二日後にはSS六改に乗って二名の弁護士が入国し、被疑者は勿論被害者の黒人女性にも面会した上、対策を練るだけの時間が与えられたことは幸いだったろう。

かなりの金額の示談金が動いて、被害者側との円満な和解も成し得たが、依然として被疑者の禁足は解かれない。

ビルの手元には事件当時の映像が届けられ、無論弁護士ともども充分に検証したが、それは被疑者の犯罪行為を明瞭に映し出しており、見れば見るほどこの者の有罪を大声で主張するばかりなのである。

その現場には少なくともこの映像の撮影者がもう一人、謎の目撃者として立派に存在していたことになるが、その氏名は不明のままだ。

この映像データはビルとタイラーの別々のルートで米国に送られ、それぞれ徹底した調査がなされたが、改竄の証拠は何一つ発見されない。

まして、被疑者自身がその映像を見せられていたためもあってか、弁護士が面会したときも自らの犯行を認めている。

酔った被疑者が夜道で被害者にからみ、嫌がって逃げようとするところを押さえつけ、その下着を強引に脱がそうとしたことも、駆けつけた二人の若者が女性を助けようとしてもみ合いになり、抗う被疑者を殴りつけて取り押さえたことも全て映像にある通りだと言うのだ。

五月も下旬になると、この件は米国内にも大きく報じられ、秋津州側の対応が注目を浴びる中、罪状審議が行われることになった。

何度も触れているように、秋津州には国家基本法も無ければ体系付けられた成文法も無いため、審議と裁きは全てその地の慣習法によることになる。

この場合の「その地」とは、犯罪が行われたと思量するに足る地域と言う意味だ。

数度にわたる審議の結果、結審した内容が又物議を醸すことになった。

ビルとタイラーの身元引き受けによる、無期限の蟄居と言うことになったからだ。

詰まり、この蟄居期間中のコストと服役中の囚人の身柄一切について、ビルとタイラーが連帯して責めを負うと言うわけだ。

万一、囚人が逃亡したりすれば、身元引受人が同様の罪科に問われることになり、この身元引受人が出国する場合は、代わりの者を立てなければならないと言う。

この件について、米国側は一切外交問題にする素振りさえ見せず、静かにことの推移を見守る内、ひと月ほどで囚人の蟄居処分が解かれ、新たに国外退去処分が通告された。

囚人はその刑期を満了し、祖国に帰って全くの自由を取り戻しはしたが、二度と入国を認められることは無い。

一連の流れから、秋津州側の外国人犯罪に対する考え方がおぼろげに浮かんで来る。

外国人が犯罪を犯した場合、犯罪人の国籍国に対してもその責めを連帯させようと目論み、現に実行していることになり、タイラーに関しても、外交官特権など全く認めるつもりの無いことがいよいよはっきりした。

いざとなればタイラーなど、軽がると拘束されてしまうに違いない。

米国内のメディアは、秋津州がどの国家に対しても同様のスタンスで臨んでいる事を報じ、米国だけが特別に不利益を蒙ってるわけではないことが広く知られるようになった。

勢い、一部の米国市民の間に湧き上がった秋津州に対する批判的な声も、ぱったり聞こえてこなくなったのである。


NBSの現地責任者であったビルは、責めを負って支局長の職を退こうとしたが、慰留されてその職に留まることとなり、早速その挨拶もかねて内務省最上階を訪ねることにした。

そこが、秋津州国王の私的なゾーンであることも多少は意識して、一応ネクタイを着用してエレベーターに乗ったのである。

普段は全くラフな格好でのし歩いていて、ネクタイなど滅多に着けた事は無いのだが、さすがのビルも、今回の訪問ばかりは普段のものとは些か趣きが異なっていた。

不埒な部下がこの程度の処分で済んだのも、一に国王の暗黙の指令あってこそと言う心象が強く、その感謝の意も表しておきたい。

目的の最上階でエレベータを降りると、そこはロビー形式になっており、乗降口の反対側にそこそこのテーブルセットが置いてある。

お、今日も来てるな。

そこには、顔見知りの熟れた女どもが三人して突っ立っていた。

三人とも、形式上NBSの関連会社の社員と言うことになってはいる。

多分、エレベータが止まったのを見て、陛下が降りてくるとでも思って慌てて立ち上がったところなのだろう。

「よっ、オレで悪かったな。」

夕方頃には、ここいら辺で網を張ってるところをしょっちゅう見かけるのである。

「あら、相変わらずおヒトが悪いわね。」

中の一人がなれなれしく近寄ってくる。

見たところ、三人の中でもこのモニカと言う娘が飛び抜けて艶っぽい。

もっとも誰もがみんな、自分の容色を餌に日々狩りをする以上、化粧も身なりも当然その目的にあわせている。

「狩りの成果はどうだい?」

「さっぱりよ。」

隠そうともしないのは、今更惚けても無駄なことを知っているからなのだろう。

「そりゃ、気の毒だなあ。」

「口ばっかりなんだから。」

まったく、心にも無いことを言うものだ。

だが、女たちにはこれよりほかに手が無いのである。

「さっき、電話で聞いたんだが、もうじきご帰館らしいぜ。」

前以て国王の帰りは近いと聞いて来ているのだから、これは本当だ。

「うん、ありがとう。」

礼のつもりか、小悪魔はセクシーな仕草でビルの手をちょっと握ってから、豊満な腰を揺らしながら元の待機場所に戻って行く。

その後ろ姿を眺めながら、若いに似ず陛下はまったく堅物だと思わずにはいられない。

自分だったら、絶対放っとかないんだがなあ。

あの女たちは多いときには、五・六人がかりでしょっちゅう押しかけて来てるようだが、いまだに例の酒場にまで獲物を誘い込んだと言う話を聞かない。

長い回廊を少し進んだとき、前方にいつもの侍女の一人が姿を現して会釈している。

出迎えてくれてるのだ。

慌てて両手をポケットから出しながら会釈を返したが、あっちのアメリカ娘たちと違って、こっちは全く清楚で美しい。

一つだけ、けちをつけさせてもらえば、少しのっぽ過ぎることだ。

あいにくこっちは、井上司令官とどっこいどっこいで、そう大きいほうじゃないんだ。

侍女たちはハイヒールを履いてるから、なおさら見上げるような感じになっちまう。

入室すると、意外にも既に陛下は窓際で外をご覧になっておられた。

じきに夕立が来そうな空模様なのだ。

農夫でもある君主が、常に気候を気に掛けるのはしごく当然のことで、ビルにしても農地にいる若者を見るのが殊に好きなのだ。

長身の農夫が、今気配に気付いて振り返った。

「お、いらっしゃい。」

「は、今日はご挨拶にまかり出ました。」

「ふむ。何かありましたか。」

「このたびは、いろいろとご配慮を賜り、ありがたく御礼申し上げます。」

勿論、部下の不始末に課された軽いペナルティに感謝しているのである。

「何のことかな。」

「いえ、私どもとしましては一言お礼を申し上げさえすれば、それで気が済みますから。」

ちょうど今窓の外は夕立が降り始め、一気に室温を下げ始めた。

「良い降りだ。この雲行きなら二十分は降ってくれるかな。」

「いや、せいぜい十分ほどがいいところでしょう。」

黒い雲が急速に流れて行く。

「うむ、せめて十五分は降ってもらいたいものだ。」

「さようでございますな。ところで陛下はエレベータでお帰りになりましたか?」

「いや、別のルートで戻った。」

「どうりで、ロビーで女どもが待ちぼうけを喰わされたわけですな。」

「やはり、あそこで待ち構えていましたか。」

若者は、それもこれも全て知った上で言っているのだ。

「可哀そうに。」

言葉とは裏腹に、ビルの頬は思い切り緩んでいる。

「そうか、可哀そうか。」

「可哀そうですとも。たまには女どもにもお付き合い下されば、きっと泣いて喜びますぞ。」

「旨い酒を飲ませてくれるかな。」

「そりゃ、勿論でございましょう。」

「焼酎もあるだろうか。」

「その用意も無くて、ああして迎えには来ぬでしょうな。」

国王専用と謳っている以上、その好物を用意していない筈は無い。

「では、たまには付き合ってくれようかな。」

「男には、息抜きも必要ですからな。」

確かに、最近の若者は働きづめに働いてきて、やっと多少の余裕も持てるようになって来たところだ。

雨の中、初めてその店に出掛けて見る気になったのである。

ビルも誘ったのだが、その酒場は国王以外の客はお断りなのだそうだ。

私の連れなのだから構わんだろうと言って見たが、まあ取りあえずお一人で楽しんでらっしゃい、と言って笑いながら帰って行った。

例によって甚三郎一人を連れ、大喜びの女たちとリムジンに乗り込んだ。

米国製のその乗り物にも多少の興味があったからだ。

大出力のエンジンは予想通り静粛そのもので、思わずにんまりしてしまった。

無論、永久原動機を採用しているのである。

着いてみると聞いていた通り、そこはダイアンの住まいと同じマンションの五階にあり、車の中から連絡してあったと見えて、エレベータを降りると派手な出迎えに会ってしまった。

ざっと二十人は揃っている。

そのほとんどがイブニングドレスか、あるいはそれに準ずるような派手な装いばかりなのだ。

甚三郎は例によって表の通路で立ち番だったが、既に多数のG四が入って徹底的にチェック済みの筈だ。

甚三郎自身は一歩も入らなくても、配下のG四から刻々と報告が入る上、近衛軍のネットワークも十重二十重に取り巻いて警護態勢は万全と言って良い。

ましてそのネットワークは、秋元姉妹や地球上の一個兵団のネットワークとも緊密に連結しており、加えて、地球を取り巻くようにして中空に留まっている多数のノードが、地表とマザーとを幾重にも繋いでいる。

かつては六千万キロメートルも離れた位置に置いていたマザーの船団を、一瞬にして月よりも近い位置に移動させたのは開戦の直後であった。

この状態こそが、例え国王が睡眠中であっても、マザーの指令が数秒後には地表で実行されることを可能にしているものだ。

そのネットワークの中に地球そのものがすっぽりと納まり、その制御下にある膨大なSDが、今このときも弛まず大気の浄化作業を続けている。

無論、全て若者の意思によっていることは言うまでも無いが、昨今の若者の心理も又尋常ではない。

胸の中で心の歯車が不気味に軋み始めており、その思いに抗いながら重い荷物を背負って必死で歩み続けていたのだ。

ひたすら働き続けて来たが、無論胸の空洞は埋まらない。

初めて足を踏み入れたひと時の安逸の世界は、今の若者にとっては殊更貴重であったかも知れない。

望みさえすれば、即座に酒池肉林の世界に変貌することが約束されているのである。

入って右手には重厚な造りのカウンターがあり、その奥には作り付けの食器棚がずらりと並ぶ。

見渡せば、ワシントンの悲痛な思いを偲ばせる設えが溢れんばかりだ。

天井には豪奢なシャンデリアが輝き、フロアには真紅の絨毯が敷き詰められ、その中心部には若者とそれを取り巻く女たち用のシートが設えられ、その席から溢れた女達が寛ぐためのものか、壁際には落ち着きのあるソファーがずらりと並んでいた。

百平米ほどのその空間は、空調も行き届き、真新しい調度も重厚なものばかりで、若者にとっても悪くない居心地を与えてくれてはいる。

導かれるまま中央のシートに腰を下ろし、ふと正面を見るとステージらしきものまで設えてあり、聞けば望み次第でストリップティーズとやらが始まるのだそうだ。

さすがに心が動いたが、取りあえず我慢しておくことにする。

女たちにしても、始めのうちこそ二十人ほどだったものが、支度に手間取ったらしい新顔が五月雨式に入ってきて、やがて四十人ほどになった。

この任務に就いた者は百名を超えるらしいが、中途で帰国した者も多く、今はこの四十人ほどが定着していると言う。

残った者は、さぞかし旺盛な敢闘精神の持ち主ばかりなのだろう。

ハンターたちはこの建物の中にそれぞれ専用の拠点を与えられ、そこへ獲物を誘い込むべく日々爪を研いでいることになる。

美しく着飾ったハンターたちが、今や獲物の周囲を埋め尽くさんばかりだ。

嬌声と脂粉の香りに包まれ陶然と杯を重ねる間、何かの取り決めでもあるのか、周囲の女たちの顔ぶれが頻繁に入れ替わり、肝心のモニカが一向にそばに来ない。

酔うほどに、その艶やかなボディラインを、つい目で探してしまっていることに気付かされ、たまたまその女体が視界の中で動くときなど、実に正直に視線が追ってしまう。

それが視界から去ったあとも、見事にくびれた腰の辺りと言い、豊かに揺れる胸と言い、追い払っても追い払っても脳裏に浮かんできてしまうのだ。

お一人で楽しんでらっしゃい、と言ったビルの笑顔が目に浮かんだとき、又しても顔ぶれが入れ替わり、その中にモニカの顔も混じっていることに気付いた。

ただ、惜しいことにこっちとの間には、別の顔ぶれが二人ばかり入って邪魔をしている。

そのとき、小ぶりのテーブルを挟んで正面に座った女が、グラスを取ってお代わりを作ってくれる姿が目に入った。

見事なブロンドが前屈みになって、これ見よがしにこぼれんばかりの胸の隆起を見せ付けており、一際刺激的な眺めを遠慮なく見物させてもらいながら、つい口に出てしまったのである。

「うーむ、まさに百花繚乱とはこのことだろうなあ。」

すぐ左側に座を占めていた女がすかさず反応した。

「あのう、ハッカロウランってどういう意味ですか?」

少し舌足らずの日本語で、見れば、アジア系のなかなかの手弱女である。

「あはははっ、ハッカロウランは良かったな。」

周りの何人かが、恐らく意味も分からずに賑やかな笑い声を上げた。

「陛下の意地悪っ。」

ふくれている姿も愛らしい。

「いや、すまん、すまん。」

取りあえず謝っておくに如くは無いだろう。

「タエコ。」

そのアジア系の子の向こうにいたモニカが声を掛けてきた。

「んっ。」というように、振り向いたところを見るとその子がタエコらしい。

名前から見て日系アメリカ人なのだろう。

「それはね、お花畑にたくさん綺麗なお花が咲いてるって言う意味よ。」

「へえ、そうなんだ。モニカお姉さま、ありがとう。」

周りの子たちも、揃って感心している。

京子の報告によると、このモニカは今も日本語のエクササイズを欠かさないらしく、そのモチベーションは決して衰えてはいないと言う。

やはり、タックスフリーで一千万ドルと言うボーナスは、誰にとっても相当な魅力なのだろう。

左隣のタエコが気安く脇腹を小突いてきた。

「じゃあ、陛下はこのお花畑では、どのお花がお好きなんですか?」

いきなり、大手門から切り込みをかけられてしまった。

苦笑いでやり過ごそうとしたが、タエコはこっちの左ひじを両手で掴んだまま、いい加減な返答など決して赦すまじとばかりに、真剣な目をして見つめてくるのだ。

「モニカ姉さんとタエコが良いかな。」

つい、その真剣な目に応えてしまった。

「ふーんだ、きっとタエコはおまけね。」

又しても、鋭い突っ込みを入れて来る。

「いや、おまけじゃないよ。」

「うそね。だって、陛下はさっきからモニカ姉さんばっかり、ちらちらちらちら・・・。」

うーん、まったく鋭いヤツだ。

「そうか、ばれてたか。」

「ばればれよ。」

「うむ、あやまった。降参するよ。」

「じゃあ、許してあげるわね。」

「それは助かる。」

「その代わり・・・。」

意味ありげな目が笑っていた。

「んっ?」

「その代わり、これからモニカ姉さんのお部屋で飲み直しましょ。」

「お、そうきたか。」

どうにも、こそばゆかった。

「じゃ、行きましょ、行きましょ。」

タエコは無邪気にはしゃいでいるが、肝心のモニカはと見ると、艶然と笑みを浮かべながら今立ち上がるところだ。

タエコに手を引かれるようにして通路に出ると、一足遅れてついてきたモニカに、たちまちもう一方の手も取られてしまい、結局二人の女に両手を預ける形で歩かざるを得ない羽目に立ち至っていた。

甚三郎が一人黙然とついてくる。

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  1. 2005/11/04(金) 05:53:58|
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