日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 050

 ◆ 目次ページに戻る

次の日のタエコは、モニカからじっくりとレクチャーを受けてからタイラーのもとを訪れていた。

勿論、前以て電話を一本入れてある。

変わった写真を手に入れたと言うと、とにかく直ぐに持って来いと言われたのだ。

それが荘園を写したものだと、あの方ご自身が仰っていたことも報告してある。

手に取ってまじまじと見ていたタイラーの顔色がみるみる一変してしまったが、タイラーからすれば無理も無いことだったのである。

何しろ、ワシントンが今最も欲しがっている情報は、秋津州の謎に満ちた本拠地に関する情報だ。

その本拠地こそが地球外の天体、すなわち王の荘園であり、それについての具体的な情報は、これまでどう足掻いても入手出来なかったものだ。

殊に、秋津州人の口の堅さときたらもう呆れるほどのもので、買収も脅しも全く効かないのである。

常套手段の酒やセックスやギャンブルを利用しようにも、いずれも全く効果が見られない。

かと言って、荒っぽい手を使ってそれが表面化してしまえば、その報復が又恐ろしい。

なにしろ相手には、例の特殊な通信技術がある。

下手な動きをして、そのことが一瞬で通報されてしまう懸念が捨てきれない。

おまけにこの国は典型的な専制独裁制を採っており、国王だけが全ての情報を独占し、その人以外に最終的な決定権を持つ者がいないのだ。

かと言って、その国王を暗殺してしまうことも出来ない。

国王が変死したりすれば、これもまた例のNATO殲滅作戦が発動され、現在の我が国にはそれを防ぐすべがない。

相手が我が国を完全占領するために要する時間は一時間未満だとされている上、その場合でも動員される秋津州軍はごく一部だけだと考えられており、力戦して敵襲を凌ぐことが出来ても、その背後には数倍、いや数十倍の遊撃部隊と無数の本軍が控えているのだ。

王の高級幕僚たちの間には、今現在でも米国に報復攻撃を加えるべしとする者が多いと聞いており、我が国はそうされても仕方の無い過去を持ってしまっている。

その上、昨年、この国が侵略を受けたあのときの議会前の主戦場をつい思い起こしてしまう。

あのとき秋津州人が見せた恐るべき敢闘精神を、我々は既に知ってしまった。

ヤツ等は、敵と相対したときに一切死を恐れないのである。

秋津州人とは、このような特殊な精神性を持った民族なのだ。

いざとなれば、それこそ、生ある限り最後の一兵まで戦い抜くに違いない。

我々が相手にしているのは、そう言う特殊なやつ等なのだ。

中でも、国王などは、高々十四歳にして自ら一軍を率いて壮絶な初陣を飾ったと聞いており、そのときもかなり絶望的な戦況であったらしいが、逃げるくらいなら闘って死んだ方がましだと叫んで、敢然と突撃していったと言うのだ。

まったく、この王あって、この国民ありきだ。

その王が、そのときの敵の手から秋津州を防衛するために、あれほどの大軍団を建設し、なおかつ信じ難いほどの機動性と例の通信手段とを与えたのである。

確かに国家安全保障会議においても、秋津州と闘えば必敗であることを認めてはいるが、何も永遠にその状態を続けるつもりは無い。

一刻も早く軍事的均衡を回復し、なおかつ優位性をも誇示したいところだ。

だが、現状では屈服せざるを得ない。

せめて相打ちに漕ぎつけられなければ抑止力そのものが機能しないため、最低でも敵の軍事拠点の在り処を全て掴んで置きたいところだが、その最大のものこそ王の荘園だと目されているのだ。

それが宇宙の彼方に存在する以上、敵の持つ「特殊な空間移動技術」を獲得しない限り、それを叩くことすら出来ないとして、ワシントンがその技術開発に血の道を上げているこんにち、つい最近になってその謎の荘園が三つも存在しているとする情報まで流れた。

我が国としては、実に重大な局面に遭遇したことになる。

事実とすれば、仮にその一つを潰すことが出来ても、未だほかに二つも残ってしまうため、結局、三つの荘園を同時に殲滅する必要が生じたのだ。

一つでも残してしまえば、身の毛もよだつような報復攻撃を覚悟しなければならず、一刻も早くその全容を掴むことが求められているのである。

この状況下で、今自分が目にしている映像は、間違いなく他の天体を捉えたものに見える。

そこへもってきて、今目の前にいるのは、ちょっと頭のネジが緩んでしまってるような小娘だ。

確か、白人の血が四分の一ほど混じった日系人と聞いているが、十五・六にしか見えない子供っぽい顔をして、又とんでもないものを持ち込んで来たものだ。

だが、国王から直かに入手したと言うからには、どうやら子供だましの作り物などでは無さそうだ。

それも、そこに見えている天体には明らかに大気や豊富な水があり、見たことも無い形をした大陸の一部まで写っている上、地表にはその上空にある雲の影まで見えており、はるか彼方から巨大な恒星の光が降り注いでいることを、はっきりと物語っているのだ。

地表では盛んに光合成が行われ、さまざまな生物が育まれているに違いない。

この画像は、ワシントンにとって、第一級の価値を持つ可能性は極めて高く、タイラーの職責から言って、顔色を変えてしまうのも無理も無いのだが、それにしてもその反応はタエコの予想を大きく超えていた。

その写真を持って慌しく別室に消えたタイラーが、一向に戻って来る気配が無いのだ。


だが、一方のタエコからすれば、もう一つぴんとこないものがある。

あれが、そんなに慌てるほど大変なものだったのかしら。

確かに、モニカ姉さんも相当な物なんじゃないかとは言ってたけど、それにしてもとてもそんなに慌てるほどのものとは思えない。

でも、そのボスがなかなか戻って来ないのだ。

ひとりぼっちで放ったらかしにされて、その間とても退屈だったし、のんびりお化粧でもすることにしよう。

バッグからごそごそと小道具を取り出す。

手鏡の中の小作りのその顔は、ヒトが言うほど子供っぽいなんて思えないし、自分ではそこそこの美人にさえ見えている。

しなやかな黒髪も気に入ってるし、ミルク色の肌もぱっちりした黒い瞳だって大好きなんだもの。

胸や腰はモニカみたいに大きくは無いけれど、体全体のプロポーションはあたしの方が絶対勝ってると思うし、陛下だって、いつかはこのあたしを、もっと女性として扱ってくれるようになる筈なのよ。

本当はモニカだって未だ何でも無いんだもの、いつかは、あの逞しい腕にぶら下がって街を歩いてみたいのだ。

あ、ボスが帰ってきた。

手にいろんなペーパーを持って息も少し弾んでるし、よっぽど急いで来たみたい。

ボスのかなり性急な質問が始まったが、タエコは充分にレクチャーを受けてきていた。

その第一は、国王の方から提供されたものだとは言わずに、おねだりして強引に手に入れたと主張することだ。

だから、その入手の経緯を聞かれたときには、胸を張って言ってやった。

「酔っ払ったあの方のポケットから見つけたのよ。」

「それでどうした。」

このおじさんは、相変わらず偉そうだこと。

「だから、そしたらこれが荘園の写真だって仰ったわ。」

「それで、あの方は簡単にくれたのか?」

「写真、返してよ。あんなにお願いしてやっと頂いたのに、今度お見えになったとき、持ってなかったら変じゃない。」

そうだ、大切な人からのプレゼントなんだから大切に飾って置くことにしよこう。

「ああ、あとで返すよ。」

「今夜お見えになるかも知れないんだから、直ぐ返してくれないと困るわ。」

これも、打ち合わせた通りだ。

初めからボスに見せることを前提にしていたなんて絶対内緒なんだもの。

「分かった、分かった。直ぐ返すから。」

「それに、あたし妊娠しちゃうかも知れないんだから、あの方に頂いたプレゼント、とっても大事なのよ。」

これも、モニカから教えてもらった台詞だった。

「なにっ?」

モニカが言ってた通り、ボスはかなりの反応を示している。

「だって、丁度今危ない時期なんだもの。」

「ふうむ、じゃ、またお見えになりそうなんだな。」

「当たり前でしょ。」

自信たっぷりに言ってやった。

「タエコ、頼みがある。」

ほら、来た。

「・・・。」

「この手の写真がもっと必要なんだ。出来ればもっと地表に近づいて撮った写真とか、別のアングルのヤツとか。これはとても大切なことなんだ。」

ほんと、判りきったことばっかり。

このヒト、あたしの頭の中身を軽く見て、すっかり見くびってくれたみたい。

あたしにだって、大体のことは判るんだから。

結局、このヒトたちは荘園のことを調べ上げて、あとで総攻撃をかける気なんだわ。

きっと、核ミサイルを何万発も打ち込むつもりでいるに違いない。

でも、そんなことしたら絶対仕返しされるに決まってるじゃないの。

だって、あの方の軍隊って世界一強いって聞いたもの。

米軍も仲間に入ってるNATOが束になってかかっても問題外らしいし、この前テレビでしゃべってたヒトなんか、世界中の国が全部一緒になってかかっても、とても敵わないって言ってたもの。

去年だって、ロシアとかいくつもの国をたった一時間くらいで、全部占領しちゃったみたいだし、あ、だから、その仕返しが怖いから、全部いっぺんに攻撃して陛下も一緒に皆殺しにする気なんだ。

そうなると、陛下に気付かれないように、いきなり不意打ちを掛ける気ね。

きっと、そうなんだわ。

そんなのひどいわよ。

どうして、あの方が殺されなくちゃいけないのよ。

そんなの絶対嫌だ。

最初、モニカに誘われてこの仕事に応募したころは、なんとも思わなかったけど今は絶対嫌なのだ。

もともとあたしたちの任務は、秋津州のあんまり知られてない内情全般、それも軍事機密について情報を探ることだと聞いた。

それも、大事なことを知ってるのは陛下一人だけだと言うので、とにかく近づいて、陛下が心を許すほど親密な関係になっちゃうのが先決だと思って今まで動いてきた。

だから、いまボスが言ったことなんか百も承知なのに。

「ふうん、そんなに大事なことだったらモニカにも相談しなくちゃ。」

「ほほう、おまえ等も組んでるのか?」

「この前、モニカの部屋に連れてって上げたのはあたしよ。夕べは逆だったけど。」

「交替交替でアシストしあってるってわけか?」

「そっ。」

「じゃ、あの写真、モニカも見てるんだな。」

「もちろん。」

「じゃ、おまえら全部共同作戦なのか?」

「うん、二人ともあの方の赤ちゃんを産もうって、競争で。」

「う・・・。」

「今度のボーナスも二人ともタックスフリーよね。」

「そりゃ、勿論だ。」

「いくら?」

「よし、二人に二十万づつ出そう。」

やっぱり、モニカが予想した通りボスはけちんぼだと思った。

「ふうん。」

あの方なんか、とっくに五百万づつくれたもの。

「不満か?」

ずるそうにこっちの顔色を見てる。

「別に。」

「とにかく、さっき頼んだものを手に入れてくればもっと弾むからな。」

もっと弾むからって、一体いくらよ。

この分じゃ、あんまりその気になってると、あとでがっかりするくらいが落ちね。

ほんとにずるいんだから。

「分かったから、写真返して。」

半分くらいは、ほんとに腹が立ってきちゃった。

それから又十五分も待たされたけど、写真を受け取ってさっさと帰って来た。

あとでモニカと二人で、その話題ですっかり盛り上がっちゃって、もう大変だったもの。

ただ、そのあと二人でちょっと買い物に出かけたとき、とても大きなものが静々と舞い降りてくるのを目撃した。

あとで聞いたら、それは国民議会の前の広いグラウンドに降りて、大勢の兵隊さんたちが据付作業の真っ最中らしい。

きっと、建国記念のイベントで使う建物だろうって言ってたけど、話では雨が降っても大勢のヒトがそこで雨宿りしながら参加出来るらしい。

ほんとにあの方のなさることは、スケールが違うわねって言いながら又盛り上がっちゃった。

ボスに言ったときは作戦だったけど、ほんとに二人ともあの方の赤ちゃんを産めたらいいわねって、本気で言っちゃったわ。

モニカお姉さんもやる気たっぷりだと感じたし、どっちか一方が産むことが出来れば、それはそれでそのあとも助け合って行こうと言うことになって、その辺は今とちっとも変わらない筈なのだ。

昨夜のことは、ほかの仲間には絶対に秘密にしておこうと言うことにしたし、これからは場合によっては、ボスにだって言わない方が得な場合も出てくるかも知れない。

どっちにしても、陛下をお迎えに行く日課が今までよりずっと張り合いが出来たみたい。

あの方がほんとのボーイフレンドだったらどんなに嬉しいか、ちょっと想像して見ただけでわくわくしてきちゃう。


その後タイラーはワシントンの反応に、ある意味満足していた。

ワシントンが、今回の情報をそれなりに重く受け止めてくれたからだ。

既に、例の写真も現物を送り届けてある。

無論、躊躇無くあのSS六改のチャーター便を使った。

操縦しているのは機体毎に付属しているヒューマノイドではあるものの、何せ、生身の人間が乗っていなければ、あの航空機は信じ難いほどの高速で移動することが出来るのである。

貴重なあの写真は自ら厳重に封印して鞄に入れたのだから、敵には絶対に見られない筈だ。

しかも、それだけを載せたチャーター便は、ワシントンまでほんの三十分ほどで着いてしまったのだ。

到着時のワシントン近郊では、他の航空機の飛行が全面的に停止されたであろうことも想像に難くない。

ナショナル空港の離発着も、完全に停止させられたことだろう。

あの少し頭の軽そうな娘には、良く似た紙質の光沢紙に印刷したコピーを渡してやったのだが、全く気付く気配も無かった。

まあ、それはそうだろう。

自分でも、二枚並べても見分けることは難しいほどの出来栄えだったのだ。

やがて返って来たワシントンの反応によると、その実物を分析した結果、やはり子供だましの作り物では無いと言う。

あの映像は間違いなく地球外の天体を高空から撮ったものであり、それも問題の荘園の一部であることも確かだろう。

惜しむらくは、地表の詳しい様子が見えるまで拡大すると、いくら先進的な技術で画像処理をかけても、使い物にならないほどぼやけてしまうと言う。

より以上に精細な映像データが、喉から手が出るほどに欲しい。

こうとなれば、タエコたちの今後の活躍になお一層の期待がかかるのである。

実は、より一層戦果の拡大を図るため、新たに強力な尖兵と為すべく、急遽別の二人を選抜してあるが、今となればその選定基準を誤ったかも知れない。

先日モニカの報告を受けた直後、あの若者の女性に対する好みを勝手に推量して、豊満で肉感的な者ばかり選んでしまったのだ。

その二人とは、新規の応募者の中でも特に目を引く者たちで、無論先頃入国させたばかりの者たちだ。

シャルロットとアレクサンドラと言う期待の星がそろそろ特訓を終え、出撃させる予定でいたのだ。

ところが、二人ともあのタエコとは全く相反するタイプで、その点互いに良く似た身体的特徴まで併せ持っており、生粋のアングロサクソンであるところも、母国に対する濃厚な帰属意識を期待出来そうだ。

イタリー系のモニカや日系のタエコなどとは根本的に違い、真っ白な肌色に輝くブロンド、そしてブルーの瞳を持ち、理想的な同族意識を感じられる戦士なのだ。

本国での選考過程においても、二人共特別に期待を集めたほどの美貌を誇り、年齢はたまたま同年で二十一歳、背丈はモニカたちと同程度のものだが、すらりと伸びた見事な脚線美を具えている上、それこそ腰も胸も豊穣で、殊にその胸などは二人ともはちきれんばかりだ。

今ではすっかり一つのティームとなった妖艶な尖兵は、ロッティ、サンディの愛称で呼び合うまでになり、ティーム名も自らキャンディと名付けたと言う。

このティームには、別に高額の特別ボーナスを支給して、その身体的特徴をより一層強調し濃艶に引き立たせる衣装をふんだんに用意させた上、ほかのメンバーたちに優先して活動し得る特権まで与え、その持てる武器を徹底して使うよう改めて指示してある。

どちらかが成功しさえすれば、それはティームとしての成果であるとして、両方に同額のボーナスを支払うことも言い渡し、その戦闘意欲をさまざまに鼓舞して置いた。

これで、ティームとしてのコンビネーションもうまく機能して、飛躍的な成果を期待出来ると思ったところだったのである。

ところが、その矢先に予想外のことが起きた。

タエコの出現である。

それにしても、あのタエコなどに喰い付いて来るとは全く意外だった。

特別の獲物を釣り上げるために、色々なパターンの餌を用意したつもりではいたが、この餌にはほとんど期待していなかったのだ。

タエコの場合、少女雑誌のモデルが似合いそうな未成熟な体つきをして、その顔にしてもいかにも子供っぽい。

どう見ても、大人の女の色気などとは縁の無い風貌だ。

それが、とんでもない大物を釣り上げて来たことになる。

うまくいけば、王の荘園の全容を解明する手がかりが次々にヒットするかも知れない。

とりあえず、モニカのティームにもティーム・キャンディと同等の特権を与えることにしよう。

二つのティームがそれぞれ存分に競い合って、まるで猛獣のようなあの男を隠微で自堕落な世界に誘い込み、仮に情報収集が思った程の成果を上げることは出来ないまでも、せめて徹底的に骨抜きにしてしまうことも我が国の国益に適うのである。

そのことについては、東京の立川みどりと言う女性がもう一つ重要な鍵を握ってる筈で、その件もタイラーの重要な管掌の内に含まれている。

その女性は、王に伴われて三つの荘園の全てに旅して来たと言う。

それも、どうやらあの男を強引に押し切るようにして、その旅について行ったと言われているが、我が国にとってのあの男は、いまや魔王のような存在なのだ。

少なくとも、あの魔王に対してそれだけの影響力を行使して見せたらしい。

そのことにかなりの信憑性があることが、その場にいた女たちの証言から浮かんで来ているが、何しろ彼女たちはその時その場にいて、そのやりとりを生で聞いていたと言うのだ。

いずれにせよ、立川みどりと言う女性は三つの荘園のさまざまな風景を、直かにその目で見て来ているのである。

複数の日本人を使ってその女性にもアプローチを掛けさせてはいるが、金銭での抱き込みは不可能との報告を受けてしまっている。

彼女自身が既に相当な資産を形成しつつある上、あの巨大なダイヤだけでも数億もの価値を持つことが確認されており、サウジの王族から二十億とかのオファーを受けていながら応じる気配すら見せないと言う。

このことからも、その経済的な余裕が窺い知れるが、それも全て、秋津州国王の庇護を受けることになってから生じたものであることも判っており、その前はいっとき破産寸前にまで追い込まれていたほどだと言うのだから、その女性が今更国王を裏切ってまでカネに転ぶとも思えない。

それは、金の卵を産むニワトリを喰ってしまうに等しい。

そのニワトリが今後も産み続ける筈の卵は、想像を絶するほどのものであることくらいバカでも判ることだ。

かと言って、この女性を拉致して来て薬物等を以って口を開かせて見たところで、それこそ記者会見で本人も言っていた通り、期待するような風景描写を彼女の口から得られようとも思えない。

また、彼女が決定的なことまで知ってるかどうかも疑問がある上、そのことが魔王を激怒させてしまうことの方が、余程恐ろしいことに思えるのだ。

魔王はその兵を動かすに際して、面倒な手続きなど一切必要とはしない。

全て己れの胸先三寸で、最も重大な事項が決定され、かつ執行されてしまうのだ。

それこそ、瞬時に何が起きても不思議は無い。

加えて、彼女の身辺には多数のヒューマノイドが目を光らせており、変事に際しては瞬時に反応するに違いない。

あまりにリスクが大き過ぎることに比べて、そのリターンは不確実なものでしかない以上、結局、立川みどりに対しては迂闊なことは断じてなすべきでは無いことになる。

また、記者会見にも同席していた理恵と言う女性は勿論、そのほかの女たちにも全て工作して見たが、予測通り価値ある情報など誰一人持ち合わせてはいなかったのだ。

だが、この工作の結果、最も恐るべきは敵の防諜能力だったことを、図らずも思い知らされることになった。

金銭を目当てに積極的に工作に応じようとした女たちが、その勤め先を即座に解雇されてしまったのだ。

その女たちが、当方の工作活動に協力的な態度を示した事実が、全て筒抜けになってるとしか思えないのである。

まるでその場その場の情景を、全て生中継で見られているような気分にさえなってくる。

相手側には、よほどの諜報能力が備わっていることは確かで、いっそ不気味なものすら感じてしまうほどだ。

その結果、今では、その店に勤務している生身の女性は、理沙と理恵と言うたった二人だけになってしまっていると言う。

残るは、全てヒューマノイドばかりだ。

そのヒューマノイドも、店に出ているものだけで三十名を超え、それはそれで客の人気を呼んでいると言うのだから呆れる。

そのほかにも、ほとんど人目に触れない形で、未確認の何人かが別室に潜んでいると言う情報もある上、その土地とうわ物の権利者が、株式会社秋津州商事になっていることも最近判明した。

詰まり、その場所の全てが秋元女史の拠点の一つなのだ。

それも、数年も前に取得していた事実から見て、その恐るべき戦略がいかに周到に練られてきたものか、今更ながらその長期戦略の緻密さには驚きを禁じ得ない。

つい最近では、クラブ碧に並んで広々としたフロアの喫茶店までオープンしており、そこで働く美貌の女たちも全てヒューマノイドであり、それを承知の上で訪れる客で賑わっていると言う。

その喫茶店が「立川」と名付けられたことから、その経営も立川商事によるものと思われ、この大型の喫茶店の営業開始により、このビルの一階には空き室は無くなり、これで、六階全ての部屋に灯りがともるようになったが、一階以外はほとんど人の出入りは見られないと言う。

試みに不動産業者を通して当たらせて見たが、どの部屋も全く貸し出すつもりはないらしい。

最上階と一階を除き、その他のフロアは全て分厚いブラインドで鎧われ、今のところひっそりとしていると言うが、とにかく謎だらけでまるっきりお手上げ状態だ。

しかも、まったく不自由なことに、秋元女史との連絡がここのところぱたりと途絶えてしまっており、このこと一つ取っても大きな障害になり始めているのだ。

全く情報が入らないのである。

言ってみれば彼女自身が秋津州そのものであり、言わば敵の巨魁なのである。

然るにそう言う人物が、ワシントンにとって特別の意味を持つ貴重な存在になってしまっている。

合衆国と秋津州国王との間を繋いでくれる点では、それに代わるものが見当たらないためだ。

そのパイプを見失ってしまえば、自分自身、任務を遂行することが一段と難しくなることは目に見えている。

まして、今まで、国王陛下にお目にかかるにも全て彼女を通して来た経緯がある。

現に、万止むを得ず、内務省の窓口に謁見を願ってみたが見事に断られてしまった。

陛下は、ご多忙中とのことだ。

全く取り付く島も無いとはこのことかと言う思いを、味あわされたばかりなのだ。

もっとも、直接お目にかかることが出来たとしても、過去の事例から見て、あまり胸を張れるような成果を期待するわけにも行かない。

下手をすれば、また、あの不味い朝飯を付き合わされた挙句、猛々しい恫喝に出会ってしまうくらいが落ちであり、とにかく、あの魔王の口から出るちょっとした一言一言が、自分の胃には一番の大敵なのだ。

最近では、小水にまで血が混じるようになってしまったが、こう言うときに彼女がいてくれれば、かなり辛らつではあっても的確なアドバイスが得られたに違いない。

その意味でもあの日本人女性は、魔王の代弁者の役割を果たしてくれるただ一人の人間なのだ。

また、その秋元女史には四人の妹がいるが全て秋津州商事の役員の筈だ。

秋津州商事は秋津州の受発注を独占的に扱う商社であり、マーケットにおいては桁外れの優位性を持ち、既に姉妹全員が相当な資産を持つことも承知している。

昨年いろいろな意味でその名を知られるようになってからは、あまり上品とは言えない週刊誌などが、姉妹のプライバシーを穿り出すようにして取り上げたことがあったが、その無遠慮な記事によれば、かなりの資産家の養女になった筈の彼女たちが、全員中学校までで学業を終えてしまっていると言う。

少なくとも、その全員が進学した形跡が見当たらない。

また、姉妹が籍を置いていた小中学校の同級生たちが、口を揃えて言っていることがあった。

不思議なことに、当時の姉妹の残像が、有名人になってしまった現在の彼女たちとは、少しも重ならないと言う。

特に一番下の雅(まさ)などに至っては最近二十歳になったばかりで、たかだか五年前には未だ中学生だった筈なのだ。

それが、たったの四年かそこらでまるで別人のように変わってしまったと言う。

さらに姉妹全員が、在学中から友人らしい友人を作ろうとする意欲に欠けていたようで、卒業後も交誼が続くような濃密な人間関係など皆無であったらしい。

どうやら、幼児のころから王家に対する忠実な協力者と言う位置づけがなされ、そのことに特化した人生設計が強制されたのではないかと思えるのだ。

それが事実としたら、そのやり方は、人間性のかけらもない酷烈非情なものとしか言いようがない。

ところが、本人たちの忠誠心は奇妙なほどにモチベーションを保ち続け、言わば、先祖代々の主家に対するもののような雰囲気さえ漂わせており、そのマインドコントロールの精妙さには不気味なものさえ匂いたつ。

ワシントンの一部では、あたかも中世の魔女の世界を見るようだなどと言う話まで出たほどで、一時、彼女たちをそのマインドコントロールから解き放ち、絶好の協力者に仕立て上げようと企図したこともあったが、最近ではとても無理だと思うようになって来ている。

とにかく、攻め手が見つからないのだ。

彼女たちには、個人的な欲望が特に希薄で、ただあるのは王家のおんためばかりであり、特に国王の世継ぎを得たいとする想いばかりが、異常なほど突出しているように感じる。

恐らく、そのためなら何でもするだろう。

特に長姉の京子の行動を見てると、国王の女性問題ともなると常軌を逸してしまっており、例の美貌の侍女たちにしても、強力に誘導している気配を感じたのは一度や二度のことでは無かった。

その誘導の中身も、あの少年にひたすら濃密に近侍して、一刻も早く王家のタネを宿すことだけが主題であって、それこそほかには何も無いと言って良い。

そこだけが彼女の唯一の弱点に見えるほどだ。

そのため、コーギル財閥からの依頼にも気軽に応じてやることも出来たのだが、案の定あれ以来ダイアンに対しても相当な配慮を与えたらしい。

おかげでこっちも、メアリーから非常な感謝と手厚い礼を受けてはいる。

いずれにしても、姉妹全員が王家との特別な関係を保ち、その活動も又大部分が王家のためであることは確かだろう。

その秋元姉妹の内、次女の千代が神宮前のオフィスの留守を守っていることは確認出来ているが、その外の妹たちについてはその所在がいまだに掴めない。

その三人の妹たちとは過去何度か顔を合わせる機会もあったが、ほんの挨拶程度のものばかりで、ほとんど話らしい話をすることも無いまま今日まで来てしまった。

三人とも若いに似ずしっかり者の美人揃いで、今になって、この妹たちとももう少し交誼を深めておくべきだったとは思うものの、全く後悔先に立たずとは良く言ったものだ。

彼女たちの一部が、内務省ビルの最上階で、当初新田源一をアシストしていたことまでは判っているが、今もそうしているかまでは判然としない。

とにかく、最近全く姿を見せないのである。

神宮前の方にも、千代以外に多くの若い女性が詰めているようだが、その中にも見当たらないと言う。

無論、国民議会の議員や井上司令官、そして侍女たちにまで手段を尽くして見たが、その反応はお話にもならない。

王の身近にいる者の中で、残る顔馴染みと言えば新田源一ぐらいのものだが、その新田などはほとんどその用をなさない上に、下手をすれば反って逆効果になることすらあるほどだ。

そもそも秋津州の正規の行政官庁としては、内務省と称する立派なものがあり、その建物も間口百メートル、奥行きが八十メートルにも及ぶ堂々たる姿を見せている。

少なくとも五つのフロアがあることが知られており、四階と五階を除いて全て内務省が使用していると言うが、その高さだけが不自然だと言う声があるのだ。

なにしろ、その屋上まで四十メートルを越えており、確かに五階建てのビルとしては異常であると言えなくも無い。

そこにも、大きな謎があると言うものがいて当然だろう。

謎はさておいても、その内務省こそが、内外ともに国政の全てを横断的に統括する実に恐るべき機関なのだ。

「省」とは言うが、あとにも先にもこの内務省だけであり、このほかには行政官庁らしきものが見当たらない。

詰まり秋津州に於ける「省」とは、唯一の中央行政官庁の謂いであり、現実に国家そのものを一切合財切り盛りしている部署だと言って良い。

まして、この「省」の長官として任ぜられた者はおらず、強いて言えば国王その人こそがそれなのである。

この内務省が、膨大な情報を集約しながらあの魔王に直結していることは明らかで、内務省を情報省と読み替えた方が余程すっきりするだろう。

その「情報省」には「司法」に関する部局は無いにせよ、財務部・兵部・逓信部・農商務部・工務部・民生部などの部局と並んで、外事部と言う部署が立派に存在している。

かつて米軍のヘリが秋津州湖で墜落事故を起こしたことがあり、その際事態収拾に出向いた数人の秋津州人がいたが、その者たちの部署こそがこの外事部なのだ。

当然この部署が対外的な対応を全て担うと聞いており、公式な外交案件は全てその外事部を通さざるを得ない。

しかも、議会が国王に専制独裁の権能を与えたため、専制君主が全ての行政官庁を直接指揮するとともに、全ての政策判断の責めをも負う形になった。

古来、専制独裁者が国家を完璧に運営しようとすれば、一切の自我を捨て去るほど非人間的な姿勢と能力を必要とするだろうに、建国の直後に外敵からの軍事攻撃を受けてしまうに至り、その専制君主が軍事行動を主軸とする作業に専ら忙殺される事態を招いてしまった。

いわゆる正常な外交を行ういとまが無くなったことに加えて、戦時外交に関する煩瑣な作業が数多く発生し、益々魔王の手足を縛ってしまうと言う事情もあっただろう。

そこに登場してきたのが、あの新田源一と言う日本の一外務官僚なのである。

魔王は、たまたま接触してきたこの破天荒な男を見込み、対外折衝の大部分を一任してしまうと言う離れ業を演じて見せたのだ。

そのことにより、日秋両国の国益に同時に適うべき外交戦略を確保したのだと見れないことも無いが、あの魔王は圧倒的な軍事力と豊富な資金、加えて無尽蔵とまで囁かれる荘園の資源をも有しており、振り返れば、これ等のリソースを背景にして行う戦時外交は、短期間に目を見張るような成果を挙げ続け、日秋両国のプレゼンスはその重みを格段に増していった。

豊富な人脈を活かしたあの男の獅子奮迅の働きが、大きく功を奏したこともあっただろうが、かと言って完璧なアシストを果たした秋元姉妹や外事部の働きも、決して軽視されるべきでは無い筈だ。

然るに、未だに新田に対する魔王の信任は厚く、両者の鉄壁のコンビネーションは日秋両国の国益を守るべく今も確実に機能しているとされ、多くの周辺国が、新田のオフィスに頻繁に接触を求めているところから見ても、今も秋津州外交における戦略面を大幅に任されていると見て良い。

詰まり、実質的な外事部のトップは新田源一だと言うことになり、外事部に外交案件を持ち込んで見ても、そのまま新田源一のデスクに載せられてしまうだけの話だ。

そうなれば、結果はもう目に見えている。

あの男は、かってこの私を怒鳴りつけたことがあるくらいで、この私に、いや、我が国に良い感情など持ち合わせている筈が無いのである。

そう言う男が日本の総理官邸とも緊密に連携を取りながら、秋津州の外交の舵取りを任されていると言うこの現実が、我が国にとって最大の不幸であると言って良い。

それが証拠に、つい最近まで我が国の示唆に唯々諾々と従ってきた筈のあの日本が、今では全くその趣を異にしてしまっている。

有力議員と言われるヤツ等も、まるで手のひらを返すような態度を見せるまでになってきており、外務省の中身も従前とは全く様変わりしてしまい、つい最近のワシントンなどでは、たかが日本の一等書記官あたりが生意気にも平気で一人前の口を利く有様だと言う。

つい先日も国務省の友人が、憤懣やるかた無しと言う風情で愚痴っていたが、そいつは、「一体何様になったつもりだ。」と吐き捨てていたのだ。

しかし、あの新田がそれを聞けば、きっと「それはこっちの台詞だ。」と言い返したに違いない。

そう言う男が、外事部の事実上のトップだと言うのだ。

その外事部は、内務省ビルの一階に公式の窓口を置いてはいるが、その実行部隊の居場所は別にあることも判っている。

最上階の国王の私的な居住空間の中に一室を構え、日本の外務省、いや総理官邸とも渾然一体となって動いているに違いないのである。

ただ、その実際の仕事場にまで入った者がいないため、どの程度のものかまでは判らない。

一方で、日本政府の代表部とでも言うべきものが、秋津州ビルの中でも最大規模の拠点を構えているが、その要員たちも実質的には新田の属僚と見るべきだろう。

そのオフィスには、恐らく米国のそれを凌ぐほどの要員が配備されている筈だが、それが最近とみに慌しい動きを見せるようになって来ており、殊に、今次の秋津州戦争の当事国とその周辺国の関係者が、頻繁に出入りしていると言う情報を得ているのだ。

その辺りの国々が、外交上のリーダーシップの取り合いで、激しく競っていたのはつい最近のことで、今もそれが続いていることも確かだが、最近は日本との連携を図ることによって、目的を達成しようとしているかに見える。

彼等は、直接秋津州との緊密な関係を築こうとして散々駆け回っていたが、秋津州が独り厳かに聳え立つ霊峰の如き存在感を示し続けているため、せいぜい五合目くらいまでしか登れずに空しく喘いでいたのだろう。

ところが、見渡せばこの霊峰の頂上にまで、ごく短時間で登っていける特別のルートを日本だけが確保しているのだ。

巷間では、日本の総理と魔王との間で数度に亘る秘密会談が行われ、さまざまなコンセンサスが成立したとする観測まで存在するが、現状を概観すれば、それも当たらずと言っても遠からずだろう。

一つ例を挙げれば、あの野獣のような若者が日本でどんなに勝手気ままに振舞っても、日本側のあの第一級の特例とも言うべき対応振りがある。

未成年の分際で、人目も憚らず酒を飲み歩くくらいは未だ良いとして、あの野放図な入出国を含め、あれほど傍若無人に動きまわられたのでは、当局はその対応に苦慮し奔命に疲れ切ってしまう筈だ。

既に日本政府は国王とその側近に対しては、何もかもひっくるめて全面的なフリーパスを与えてしまっているらしく、そのフリーパスの有効範囲には、あの野獣が自由に出入国することすら含まれているに違いない。

ところが不自然なことに、最近ではその警護の面一つとっても、日本側はあまり気を遣わなくなってきているらしい。

大した警備態勢はとられていない気配なのだ。

それは、あの魔王自身が日本側の警護を辞退して、全て自力で周辺を固めていることを意味しており、この場合の自力とは、とりもなおさず秋津州の軍事力のことだ。

治安維持部隊と言っても良い。

それ以外に一体何があると言うのか。

詰まり、日本に滞在中の王の身辺は秋津州の軍部自身が直接警護していると言うことになり、それはすなわち秋津州と言う他国の軍隊の活動を日本側が容認しているということに通じる。

一見大したことでは無いような気もするが、実は大変なことなのだ。

自国の領土内を他国の軍隊や工作員が野放図に動き回っていることになる上、それらの軍隊や工作員は、無論秋津州当局から統御された状態で動いており、その点こそが最大の問題なのだ。

それは、国家主権のごくごく基本的な琴線に、直接触れて来る問題なのである。

どだい、他国の軍隊に自国領内を自在に闊歩されるなど、もうそれだけで国家主権が踏みにじられたことになるのは当たり前過ぎるほど当たり前の話で、現に秋津州などは直径八百キロ以上もの広い範囲に亘って、海中も空中も、SS六以外のいかなる侵入も断固として許さないまま厳然としている。

その圏内に侵入しようとするものは、全て実力を以って排除して見せることによって、毅然として国家の主権を守っているのである。

自国の主権は、あくまで自国が自ら守るべきものであって、断じて他国に守ってもらうようなものでは無い。

万一、それを他国任せにしたならば、その瞬間にその国の属国に身を落としたことになるのはごく当然のことだ。

無論、この基本的な国家主権は我がステイツも自ら守っているし、秋津州にしてもごく普通にそうしているだけの話であり、その点では、正直敵ながら見上げたものだと思っている。

しかしこのことも、ごく普通の国にとってはごく当たり前の話なのだが、ひ弱な国の場合往々にして見て見ぬ振りをして、その場その場を糊塗することが多い。

その領域を他国軍に悠々と侵されても、見て見ぬ振りをするのだ。

要するに、国家主権に対する重大な侵害が行われても、気がつかない振りをして誤魔化すわけだ。

国家主権を主体的に守ると言うことは、その意思を持ってこそ初めて実行出来ることであり、普通の国と言うのはそれを守る意思を有する国を指すが、その場合、外国の軍隊が自国の領内を「勝手に」動き回ることなど、絶対に許すことは無いのである。

しかし、今の日本政府は明らかにそれを許しているかに見える。

いや、少なくとも黙過している。

すなわち、その点での特権を秋津州側に与えたことになるであろう。

一方で、秋津州側が日本に与えようとしていることも微かに見えて来ている。

それは、秋津州がその強大な資力を以って、日本側をその側面から支援する姿勢を見せていることだ。

この場合、日本側がその財政難を解消すべく、これから実行に移そうとする政策を強力に補完することと同義語であろう。

実はあの日本は、中央と地方とを併せればいまや一千兆に及ぶ負債を抱えてしまっているのだが、負債とは借財のことである以上、例外を除き利払いの必要があり、当然元金も又返済しなければならない。

周知の通り、税収が大幅に増えでもしない限りじっとしていてもそれは増え続けるばかりであり、かてて加えて、そのほかにも特別会計と言う大問題を抱えてしまっている。

この特別会計の名の下に、各省庁の担当者たちが勝手にばら撒き勝手に運用し、その結果驚くほどの大穴を開けてしまっていることについては、ワシントンにも諸々の情報が入っているが、元来この制度は、当時日本が国家存亡の危機にあたって、奇形的な戦時財政を、柔軟かつ機動的に運用し得ることを主眼として設けられたものだったと聞く。

国家としての重大危機を乗り切るためだったのである。

しかし、既に発足以来百年も経過したこの制度にもさまざまな功罪があり、一概に論ずることは出来ないにせよ、とうに制度疲労を起こしていることだけは誰の目にも明らかだ。

今ではその本来の目的の大部分が失われ、官僚といわゆる族議員たちが、それこそ己れたちのエゴのためだけに、そちこちに作ってしまった数々の大穴に蓋をして、ひっそりと隠し続けていることこそが問題なのである。

その大穴の総額は総理大臣も知ることが無い上、各省庁の官僚たちにしても他の部局のそれについては先ず知る事が無い。

厳密に言えば、その資産内容の客観的な査定評価すらなされてはいないのが実情であり、恐るべきことに、その総額は誰一人知り得ないことになる。

結局、日本国民の頭上には誰にも判らないほどの巨額の負債がのしかかっているにも拘わらず、誰一人それを明らかにすることが出来ないでいる。

まして、迂闊に表沙汰になってしまえば、収まりがつかないほどの修羅場になってしまうため、恐ろしくて公式には誰も言えないのだと言う見解まであるくらいだ。

このような大問題が、長いこと棚上げにされ続けてきて、いよいよ、現政権がそこに手を入れるべく腹をくくったのだろう。

しかし、下手に荒療治を行えば国家と言う患者が出血多量で死んでしまう恐れさえあることから、その輸血に使うための血液の補給を魔王が引き受けたのではないか。

少なくともワシントンにおいては、そのように推測する者がいる。

恐らくその大手術の際には、株式会社秋津州商事を通して、膨大な額の財政出動がなされることが織り込まれていると言うが、当然誰にでも見えてしまうような単純な形は避けて、ひそひそと進むものと思われている。

その形式にもさまざまな手段があるが、とにかく日本に本社を置く秋津州商事が、全てのトンネルになることには変わりは無いだろう。

とにかく、その扱い高を膨らませ、かつ利益を大きく取れば、もうそれだけで日本側へスローされる額も大きく膨らむことになり、秋津州の資源価値が暴落してその取引が停止でもしない限り、秋津州側が財政的に出動する額を恣意的に調整することはごく簡単なことだ。

魔王自身の懐具合いかんで、いかようにも匙加減が出来てしまう。

恐らく、このようなパターンで両国間の合意がなされたものと、ワシントンの一部が観測しているのである。

このように両国間には、見えている部分だけでも緊密な協力関係の構築が進みつつあり、まして、目に見えない影の部分に至っては一体どれほどのものが隠されているものか、全てブラックボックスの中だと言って良い。

しかも、両国がこの様な蜜月関係に至るには、忘れてはならない出来事があった筈であり、その全ては、北方四島の奪還と言う大事業が成ったことに端を発しているのだろう。

日本は全く犠牲を払わずに、北方四島に対する支配権を立派に回復してしまったが、全ては秋津州のおかげなのだ。

日露間の境界については、ごく常識的な線引きをすることで、いとも簡単に話がついてしまっており、それに伴って、広大な海域をも獲得出来たことになり、狂喜している漁業関係者も大勢いる。

結局そのことが、日秋双方にとってのエポックメーキングをなしたものと見て良いだろう。

かてて加えて、両国国民の間にはいわゆる同祖同族意識を共有していると言う最大の強みがある。

結局、この両国の間にはさまざまな因果関係が相互に絡み合い、その絆は益々強固なものになろうとしており、他国からは、唯一日本だけが、秋津州と言う霊峰の頂上にまで届く直行便を確保しているように見えて当然なのだ。

秋津州との距離を縮めたいと願う者たちは、その日本との協調路線を強めて見せることによって、その特殊なルートに相乗りさせてもらおうと考えるのも無理は無い。

自然、日本に擦り寄ろうとする者は増えるばかりであり、今や、秋津州ビルの中の日本代表部は門前市をなすと言うありさまで、その接遇にあたる係員たちはてんてこ舞いだと聞いているほどだ。

無論、その訪客たちは、自国の親日政策がいかに確固たるものであるかを、声高に売り込むために通って来る。

最近では、北部朝鮮までが代表部を開設して他に負けじと通っており、全く苦々しいことに仏独両国までが足繁く出入りしていると言い、あの日本が、ますます重要なキャスティングボードを握りつつあることを、痛切に感じざるを得ないのだ。

我が国のプレゼンスが否応無く凋落を続け、国際社会における指導力を失いつつあることが、世界秩序を不安定にしている最大の要因であり、そのことは、こちらからははっきりと見えているのだが、思い上がったあの日本人たちの目には少しも見えないのだろう。

あくまでも大宇宙の中心にはためいているべきは、星条旗以外にあってはならないのである。

それだけが、疑いも無く最も安定感のある世界の姿だと言う考えには寸毫の誤りも無い筈だ。

しかし、その安定した秩序を、あっと言う間に叩き壊してくれたヤツがいる。

それも、まるで生卵を踏み潰すように無造作に潰してくれたのだ。

おかげで、こっちの予定がすっかり狂ってしまった。

今からでも遅くは無い、出来ることなら、あの魔王とその大軍団が煙のように消え失せてくれることこそ最も望ましい。

我が国とは無関係のシチュエーションで、魔王が突然死んでしまう夢をしばしば見てしまうほどだ。

北米大陸が占領されて、ワシントンにあの八咫烏の旗が無数に翻っている夢を見てしまったあとでは、不思議と秋津州の全土が海中に沈んで行く夢を見ることが多い。

大統領のマシーンの中にも、似たような悪夢をしばしば見ると言う友人がいるが、聞けばやはり、冷や汗をかきながらうなされて目が覚めることが多いそうだ。

とにかく、安全保障上の悪夢を取り除くために、最大の脅威である秋津州の概要を一刻も早く掴もうと、必死で足掻いてしまっているために、度々そんな夢を見てしまうのだろう。

無論、必死に足掻くことが必ずしも良い結果に繋がるとは限らない。

場合によっては、却って後悔するような結果を招くことにもなりかねないのだが、そうは言っても、乗った船が沈みかけている場合、溺れる恐怖でつい足掻いてしまうのであろう。

必死になって京子と連絡を取ろうとしていることも、冷静に考えれば、あまり良い結果をもたらさないことも判る筈なのだが、今のタイラーには、ほかに有効な突破口を見出すことが出来ないだけの話なのである。

あとはあの魔王の対米姿勢を直接手探りででも掴むほかは無く、そのための手も必死で打っているつもりでいる。

モニカティームとキャンディティームなどはその嚆矢であり、今後この二つのティームの果たす役割が小さなものでは無いことを願うばかりだが、これらのティームのルートはあくまで裏ルートに過ぎず、秋元女史のルートの場合は、簡単に国王にお会いすることも可能なことから、限りなく表に近いパイプだと言うことが出来る。

今まで、常に京子だけがその役を果たしてくれていたのであり、何とかしてそのパイプの端を掴みたい思いは一層切実さを増すばかりだ。

結局、ワシントンにとって、大統領の首まで切って為しえた緊張緩和も大した救いにはならなかったようだが、それもこれも全て身から出た錆なのである。

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  1. 2005/11/04(金) 10:11:53|
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