日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 052

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二千五年七月二十日。

東経百六十二度零々分、北緯三十五度零々分、秋津州と言う名の孤島にも変わらずこの日の朝が来たが、それがその国にとって記念すべき建国一周年にあたるだけに、そこには百八十を超える国々から元首若しくはそれに準ずるような大物が顔を揃えていたのである。

中でも、米国は大統領、英国にしても首相本人が万障繰り合わせて参列しており、それに引き比べあの日本は前総理の代理出席で済ませてしまっており、この対照の妙がことさらに目を引き、メディアの格好の餌食とならざるを得ないだろう。

何せ近頃では、あの中露あたりでさえ民間の手になるメディアが芽吹きつつあり、それらの目には、この米英連合の凋落と言う食材が極上のものに写ってしまうだけに、なおのこと大量の調味料が降りかけられた上、如何にもそれらしい盛り付けがなされてから大衆の食膳に供される運命を辿るだろうと囁かれているほどだ。

ときにあたってこの秋津州では、勅が発せられ首都の名称を海都とすべく定めており、無論四海茫々たる海の都の謂いではあったろうが、それは秋津州全体から見れば西南部一帯を指し、東南部の大浦村と北部一帯を占める北浦村と共に、まるで古代を見るかのような自治が為されていると言うが、何にせよこの秋津州は四方を海に囲まれた孤高の海上国家だと言って良い。

その天地は記念すべきこの日にあたってなお穢れ無き自然の恵みに溢れ、式典の行われる海都においても、青く澄んだ空とぽっかりと浮かんだ白い雲とが鮮やかなコントラストをなして平穏そのものだ。

しかも、ほとんど無風状態であり、小さな雲たちにしても我が物顔にその場その場に居座ってしまっており、じりじりと照りつける太陽のもと、大気はかなりの湿気を孕み、じっとしてるだけでも汗が吹き出てくるほどの蒸し暑さである。

問題の式典会場とされる議会正面には国旗掲揚台のポールが高々と立ち上がり、竿頭の金色(こんじき)の八咫烏を陽の光に燦然と照り輝かせ、その又前方のグラウンドには一風変わった建造物が今や遅しと出番を待っていた。

それは、先日天空から降りてくるところをモニカたちが目撃したものであって、真っ白な小型のドーム球場を半分に断ち割ったような形状をなしており、その内部も又球場と同パターンの観客席が緩やかな扇状をなしながら、既に千に余る人々を飲み込んでいるのだが、外気温が三十度に近づきつつありながら、人々の様子が涼しげに見えているのも大規模な空調装置が働いているためではあったろう。

その建造物はあたかも小型のドーム球場を半分に断ち割ったかのような形状をなしていると書いたが、その断ち割られた断面は国民議会に向かって真っ向から正対しており、いずれの観客席も議会前に立ち上がるポールが見える位置づけだ。

やがて定刻が近づき、ポール付近に議員や官僚らしき者が整列を終え、屋内でも人々の席が定まったと思えた頃、屋外のプレス関係者などが空を見上げて大歓声をあげており、のちに報じられた映像には、天空から舞い降りて来るメインイベンターの姿があったのだが、ドームの中の人々には無論それは分からない。

間もなく観客席の後方(この観客席を球場の外野席に比定すれば、それはバックスクリーンの後方と言って良いだろう。)の扉が開き、このイベントの中心をなす一団が姿を現すのだが、それが観客にとって予想を覆すような行装であったから、満場は一斉にどよめきやがて拍手の渦が巻き起こった。

なんと、軍装の一団が全て騎乗していたのだ。

しかも、逞しげな乗馬が全て漆黒の毛並みであった上、馬具にしても見事なまでに黒づくめであり、大剣を背負った一際大柄な国王が三十三騎の従者を率いて粛々と入場して来るのである。

それは観客スタンドの中央の通路を過ぎて進み、やがてエアカーテンを突き抜けて日盛りの屋外に至り、漆黒の馬群が逞しい尻を見せつつ、正面のポールまで五十メートルほどの距離をゆったりと進んで行くのだ。

程なくして三十四騎の青毛が横一線に駒を揃えたと見るや、中央の王が悠然と指揮刀を抜き放ち今天に向かって高々と掲げた。

同時にするすると国旗が掲揚され、人々が総立ちになって拍手を送り始めたその時、まるで誘われたかのように一陣の風が吹き渡り、八咫烏の大旗(たいき)を音立ててはためかせてくれており、それは、ほんのわずかな間の出来事ではあったものの、拍手の波を一段と大きくさせたことは確かだったろう。

記念すべき演目は無論カメラの放列を前に演じられており、舞台の主役たちは無数のフラッシュを浴びつつ揃って観客席の方に馬首を返し、若者が刀の礼を以って拍手に報いんとしており、従者たちにしても片鐙を外して無言の礼を返しているところである。

さて、プログラムにはこのグラウンドでの演目は国旗掲揚とだけ謳ってあり、そのこと自体は承知してはいたものの、必ずや何らかの宣言なり声明なりが発せられるものと誰もが思っていた筈だ。

現に、さまざまな観測記事が巷を賑わせていたのである。

多くのメディアが秋津州連邦の樹立宣言があるのではないかと盛んに報じていたほどであり、その連邦の参加国にしても最少を言うものでも六カ国を数え、最大五十カ国と言う説まで存在していたほどだ。

だが、現実には舞台上の誰もが終始無言であり、結局、一言も発することの無いままに主役は従者を引き連れ、もと来た通路を通って粛然と退場して行ってしまったのである。

全く意外なことに、たったこれだけで式典はその幕を降ろしてしまったことになるのだ。

殊に、陪席のタイラーなどは内心呆れかえってしまったと言って良い。

おいおい、ほんとにこれだけかよ。

これだけの来賓を招いておいて、ほんのこれだけは無いだろう。

普通、軍楽隊が出て来て国歌の演奏ぐらいはするだろうし、主役がステートメントを読み上げるぐらいは常識だろうが。

そうであるにもかかわらず、あの野獣は国旗を掲揚してみせるだけで、あとは全て余事だとでも言いたいのか、不遜にも全世界にそのことだけを見せ付ければ事足れりと思っているのだろう。

アフリカや中東は言うに及ばず、アジア、南太平洋、中南米と多数の国々の代表たちが、熱狂的に拍手を送っていたようだが、そう言えばあの独裁者はその地を経巡ってカネと笑顔を振り撒いて歩いていた。

みんなあの男の真意が判っていないのだ。

あの男のカネと笑顔の裏には恐るべき野望が隠されていることが、彼らには見えていないだけであり、この馬鹿馬鹿しいイベントにしても、あの男にとっては世界に覇を唱えるためのほんの一里塚に過ぎないことを思うべきなのだ。

又しても胃の痛みが襲って来てしまうが、結局残されたプログラムはと言えば、秋津州ビル別館での午餐会だけと言うことになり、既にタイラーの視界の中では華やかに着飾った案内嬢たちが大活躍を始めてしまっており、その全てが振袖を翻しつつ、まことにたおやかな物腰で要人を誘導して行くさまを、ただただぼんやりと眺めているほかは無く寒々とした気持ちで一杯だったのである。


一方極上の食材を提供されたマスコミスズメたちは無論大喜びで、殊に娯楽性を持ち味としているようなメディアなどは、それこそ欣喜雀躍していると言うべきであったろう。

従って、会場から退場していった騎馬隊の行方についても、多数のテレビカメラが押し合いへし合い執拗に追い掛けており、それによれば建物の裏側から出た一団は、一部の例外を除けば人馬もろとも直ちに天空へ昇って行き、上空二百メートルほどのところにまで降りて来た漆黒のSS六が回収して去ったと言うが、飛翔能力を有しているのが馬なのか人なのか、はたまたその両方なのか、メディアの興味は尽きるところが無いのである。

又、その際地上に残った例外が国王と近衛司令官の二人だけだったと言うが、この二人の愛馬だけは単独で飛翔してSS六の中に入ったように見えたと言い、いきおい、さまざまな説をなすものも出てくる。

曰く、あの騎馬軍団は天空のSS六の中に、まるで格納されるかのようにしてその日常を過ごしているに違いない。

曰く、天空から降りて来たのは二機だけであったと言うが、このときその収納作業を行っていたのは二機の内の片方だけだったことから、残りの一機の中にも同様の騎馬軍団が待機していると見るのが妥当であろう。

いや、今回姿を見せたSS六は二機だけであっても、その背後には膨大なそれが控えていて、騎馬軍団も無数に存在しているに違いないと言う者もおり、さまざまな推理が行われたことは確かだが、黒づくめの見るからに逞しい馬たちが、まるで天馬のように空に駆け登って行く映像が、当分各地の茶の間を賑わしてくれることだけは間違い無い。

国王自身も短時間のインタビューに応えて、この馬たちは全て自分と近衛兵の乗馬であって、単にそれだけのことだと仰るが、そんなことは見れば判ることで、わざわざ聞くまでも無いことなのだ。

彼等にしてみれば、もっと肝心なことを聞き出さなければならなかった筈なのだが、かと言って、彼等は常にその思い込みを念頭にストーリーを組み立てて行くことが仕事であり、都合の良い部分だけを巧妙に切り貼りして「優れた作品」を作り上げることさえある以上、多少の香辛料さえ手に入れば優れた作品を完成させるに違いないのである。

何しろ、真実と言う名のソースが多ければ、それだけ旨みの有る料理が出来上がるかと言えば必ずしもそうとは限らないだけに、あとは全て優れたストーリーテラーの出番を待つばかりなのだろう。

又、シリアスな題材を優先するメディアにとっては、ペガサスなどより余程重大なテーマがあって然るべきで、無論それは秋津州連邦に関するものだったのだから当然そのことを尋ねずにはおかない。

だが、若者自身は全く関知しないと言い、重ねて質問すると、それは一体誰が言ってる話なのかと反って聞き返される始末だったのだが、しかし、このメインディッシュには単なる与太話とばかりも言い切れない側面も無いとは言えないのだ。

現に台湾共和国の首脳などは、一意に秋津州連邦の樹立を目指すと公言したことさえあり、連邦の中における己れのプレゼンスを高めることによって、自国の優位性を確立すべく活発な外交活動を展開し、その他の周辺国にしても皆似たような狙いを持って動いていると囁かれており、それを否定する者など一人もいないと言うほどの状況なのである。

実際秋津州は比類の無い軍事力を実戦を以って知らしめたばかりであり、しかも勝利を確定させたあとは豊富な支援を行い、敗者の自決権を尊重する実績まで持ってしまっている。

結局このことが、秋津州の影響下に入ることの積極的価値は優れて高く、短所は極めて小さいと思わせる所以であり、かくして、それを望む国が増えて当然と言う風潮が連邦論の背景にある以上、その周辺には宝の山が無数に転がっているように見えてしまって当然なのである。


さて、ありがたくも無いパレードを拝観させてもらってからの数日間と言うものは、モニカティームの情報が津波のように押し寄せて来るに及んで、タイラーの悲惨な胃痛は治まるどころか却っていや増すばかりだったと言って良い。

何せ、雨あられと重大情報が飛び込んで来るのである。

無論、それらの情報は断片的な物ばかりではあったが、当初から重大な推測を成り立たせるに充分なものであり、中には、全く新たな宇宙基地らしきものの存在を窺わせるような、とんでもないものまで出て来るありさまだ。

実は三個兵団の備えを持つ基地が、地球から二十万キロほどのところにあることは以前から承知しており、これだけでも大ごとだったところに、これに数倍するものを新たに建設中であるとする情報が含まれていたのだ。

付属の天体図によれば地球からおよそ八十万キロ付近らしいが、そこを衛戍地とする兵力だけで二個兵団であり、無論、攻撃を受けた際のリスク分散を図ると共に、荘園からの物資輸送の中継基地と為し、既存の基地と連携させるつもりなのだろうが、現に図面上に壮大な内容積を偲ばせる物体がさまざまに登場して来ており、一例を挙げれば、直径と高さがいずれも千メートルもある円柱形の建造物が多数備わっており、付属の図によればそれは原油の貯蔵庫だと言う。

見れば、何層ものレイヤによって厳重に保護される構造であり、最も内側の層でさえ直径六百メートル、高さ九百メートルもあることになっているのだから、そこに原油を入れたとすれば十六億バレルにも及んでしまう。

しかも、二十五個が油槽とされている以上、その総量は四百億バレルを超えようかと言う計算となり、世界の日々の総生産量が五千万バレルから一億バレル間で推移していることを思えば、実に世界の年間生産量さえ軽く上回ってしまうほどの量なのである。

我が合衆国でさえ、その備蓄量は官民全体で十六億バレル前後、日本に至っては、一日当たりの石油消費量が三百三十万バレルほどで、その備蓄量も官民併せて概ね六億バレルであるだけに、万一四分の一でも本物のオイルが収められているとしたら、そしてその情報が漏れでもすれば、WTIを上場するニューヨーク・マーカンタイルは勿論、その他のマーケットも瞬時に壊乱してしまうことは必至であり、これだけでも顔色を変えざるを得ない。

更にその他の貯蔵庫らしきものには、穀類他さまざまな資源が収納されると謳ってあり、他に直径が二万メートルもある建造物まで存在し、ファクトリーと銘打ってあるところを見ると、要は工業生産設備のつもりなのだろうが、とにかくそこには千差万別のデータが混在し、中でもひどく目を引くものが、古いドキュメントの中にひっそりと埋もれていたのである。

日付は今から三年前の二千二年と打たれているが、内容は北米大陸の水資源について論じているもので、国王自身がその地下水脈の扱いについて稚拙ながら問題を提起していたと言って良い。

曰く、北米大陸の豊富な地下水脈は数万年の長きに亘って大自然が育んでくれた貴重な宝であるが、それが近年実に乱雑乱暴に扱われるようになり、凄まじい濫費乱用が横行し、この分ではごく近い将来にも枯れ果ててしまい、地盤沈下は言うに及ばず、農業生産そのものが深刻なダメージを受け、飼料用穀類も暴騰してしまうだろうから、北米は食糧エネルギーの大輸出国の座から転落するばかりか、輸入国としてもその最たるものになってしまうと論じ、それは全地球的な不幸であるから、我が秋津州が荘園の水を運んででも救済しなければならない。

詰まり、三年も前の秋津州国王がそう表明していたことになり、当時たかだか十六歳の君主の思想信条の一端を垣間見ることの出来る文言として、本来ワシントンの記憶に長く留められるべきものではあったろうが、ホワイトハウスにもタイラーにもそのような心のゆとりは無い。

とにかく、モニカティームの拾ってくる情報にはいちいち目を剥くようなものが多く、そのことに心を労してしまっているからなのだが、タイラーにしてみれば思うことは実にさまざまである。

状況から見て、これ等の情報は敵にとってはさしたるものではないのだろうが、我が方にとってはさにあらずと言うべきであり、しかもそのいずれもが国王の寝室付近で入手したと言う以上、二人は重大情報の宝庫にまで踏み込むことに成功していると言って良いだろう。

近頃ではそこへの出入りは全くのフリーパスで、入室の際は侍従の者も一歩も踏み込んでは来ないと言い、主不在の際にも自在に出入りして、その次室にあるコンピュータから、膨大なデータを細分化しつつ外付けのストレージにコピーを実行中らしく、既に数テラバイトに及ぶものを手中にしているが、それも全体から見れば未だほんの一部でしかないのだと言う。

何しろデータが膨大であるためコピーにはかなりの時間を要し、作業中は王の突然の帰還を想って薄氷を踏む想いだとは言うが、未だ部分的なものとは言え、今では虚空に浮かぶ巨大城郭の姿まで拝見するに至っており、この分では数日ののちにはその大部分が入手出来るかも知れない。

考えて見れば、外部に対する防諜能力は素晴らしいものを持っているくせに、この脇の甘さには呆れるばかりだが、秋元女史の従来のスタンスを見る限りこれもあり得ないことでは無いのである。

ことこの件に限ればミス・コーギルの例を見るまでも無く、一旦世継ぎを産むと看做した者には最大限の配慮がなされるのだろうが、何はともあれ今以って騒ぎになっていないところを見ると、女どもの言う通りコピーの痕跡も完璧に消去済みなのであろう。

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  1. 2005/11/05(土) 02:19:02|
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