日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 068

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一方、小心者のタイラーは、いつもの最上階でいつもの女神さまと目出度く対面することが出来ていた。

この女神さまは、いつに変わらずしっとりと美しく、大人の女性の香りを濃密に発散して来るが、惜しむらくは、その若さだけは急速に失われつつあるように思えることだ。

出会った頃は、充分二十代半ばで通る若さを誇っていた筈が、ここに来て十歳は年をとったように見えるのだ。

この女神にとって大切なのはあの魔王だけであり、その身辺が多事多難であり続けることが、その分だけ彼女の気苦労を増やしてしまったに違いない。

見渡せば今日はいつもの侍女たちの姿は無く、見慣れぬ女性が一人ついて給仕をしてくれている。

女神と同程度の身の丈を持ち、色白の愛くるしい顔立ちの少女で、女神さまとは日本語でやりとりを交わしているところを見ると、きっと日本人か秋津州人なのだろう。

女神さまからはマサさんと呼ばれ、颯爽たるビジネススーツに身を包み、ヒールを小気味良く響かせながら動き回り、全ての身ごなしが実にきびきびとしている。

この少女もごく自然な形で同席するようだが、特段の自己紹介のあいさつは無かった。

「急な話で申し訳ない。」

女神は、急な申し入れに応えてくれたことだけは確かなのだ。

「ベクトルのことなんでしょ。」

「うん、結局何があったのかさっぱり判らんのだが。」

無言の美少女の視線が気にかかる。

正面の女神さまのすぐ隣から、星のように綺麗な瞳がこちらを向いているのである。

「何がって?」

「う、うん。」

美少女の方にちらりと視線を走らせ、つい、言いよどんでしまった。

何処の誰だかも判らない人間の前で、迂闊なことは言えない。

「あら、ひょっとして忘れたの?うちの妹。」

「え?」

「だって、何度か会ってるでしょ?」

「あ・・」

思い出した。

そうだ、女神の一番下の妹だ。

去年、日本で二度ほど会ってる筈だ。

たった一年ほどの間に、随分面変わりしてしまっているが、言われてみれば確かにそうだ。

十六・七にしか見えないが、たしか国王陛下と同年だと聞いた覚えがある。

自己紹介も何も初対面じゃなかったのだ。

「普段から、こっちにいる方が多いのよ。」

「新田氏のオフィスかい?」

「まあね。」

肝心の本人は微笑みながら、このやり取りを聞いているだけだが、ことは重大だ。

以前女神との連絡が断たれひどく困窮した折、この妹たちともう少し親交を深めておくべきだったとひどく後悔した覚えがある。

確か、全部で五人姉妹だった筈だ。

現在、神宮前に常駐しているらしい次姉の千代なら良く知っているが、思えばそのほかとは全く親交が無いのである。

「いやいや、これは、失礼をお詫びします。」

思い切り深々と、美少女に頭を下げて見せた。

今度こそ、合衆国のためになる政治的ツールとして親交を結びたいものだ。

「いいえ、こちらこそ失礼を致しました。」

幸い、にこやかな返礼が返って来た。

この少女にも何かプレゼントを用意したいものだが、果たして受けてもらえるだろうか。

少女自身、株式会社秋津州商事のれっきとした取締役を務め、相当な資産と納税実績を持つことも調査済みなのだ。

頭の中が火がついたようになって、一瞬目前の状況に対する意識が希薄になってしまったとき、主役の女神さまからお声が掛かった。

「雅(まさ)さんは、きっとお役に立つと思うわよ。」

思いがけないことを言われたのである。

これでは、自分のために役立たせることを前提に、わざわざ同席させたように聞こえるではないか。

「ほう、それは益々楽しみだ。その内食事に誘ってもいいだろうか。」

少女は、相変わらずにこやかな笑みを絶やさない。

「ま、それは本人に聞いてみることね。」

「よし、判った。」

これは、いろんな意味で楽しみだ。

「それより、ベクトルのことを聞きたくて来たんでしょ。」

「あ、それそれ。何がどうしたんだよ?」

「あちらさまから、聞いてないの?」

「聞いたけど訳が判らないから来たんだ。」

「本人に判らないのに、私に判るわけが無いでしょ。」

女神は皮肉な笑みを浮かべている。

「意地悪しないで教えてくれよ。京子もその場にいたんだろ?」

「いたわよ。」

「いったい、何があったんだ?」

「あのアメリカ人がけんかを売ったのよ。」

「まさか。」

絶対にそんな筈は無い。

ベクトルは、ひたすら秋津州に接近し、ご夫妻の知遇を得たいだけなのだ。

「本人はそんなつもりじゃなかったみたいだけど、まあ一言で言えば、日本人を侮辱したのよね。それも徹底的に。」

「そんなにひどかったのかい?」

「本人は自分の常識として体に染み付いちゃってることだから、普通のことを普通に話してるつもりなのね、きっと。」

「・・・。」

「トムにもそう言うところ有るわよ。」

「い、いや、そんなことは・・」

「そんなことは無い?」

「無いよ。」

「でも、有色人種が白人を召使いとしてこき使ってたら、もうそれだけで気分悪いでしょ。」

「う、うん、確かに見たくは無いな。そんな光景。」

「逆だったら、普通なんでしょ。」

逆とは、白人が有色人種をこき使う場合のことであろう。

「う・・」

全くその通りなのだ。

「現在でも、有色人種を有色人種と言う理由だけで、立ち入り禁止にしているところ、たくさんあるわよね。」

事実、白人種が有色人種を露骨に差別する構図は、今も世界中に存在している。

「う、うん。」

「別に責める気は無いのよ。」

「そうか。」

「みんな大なり小なり差別してますからね。」

「うーん、その差別と言う日本語は難しいよなあ。」

無差別攻撃とか差別料金とか言う場合、単に何らかの基準に基づいて、「差をつけて区別する」と言う意味の筈だ。

「差別料金」とは、同一の財貨及びサービスに対して、さまざまの基準を設けて異なる料金を設定することであり、タクシーや電話、或いは電気料金などがこれに当たるだろう。

現に、これ等は「差をつけて区別」している。

この場合の「差別料金」には全く違和感を覚えることは無いが、「無差別攻撃」となると、又別の違和感がある。

殊に戦闘中に行われる「無差別攻撃」は、後日たまたま表面化して非難を浴びるケースが多いが、この場合、攻撃の対象が戦闘員か非戦闘員かが「無差別」であったことが非難されるわけで、当然、「差別」することが望ましいに決まっている。

結局、刺激的な意味合いを以て使用される場合の「差別」とは、偏見や先入観に基づき、相対的に弱い立場にある人や何らかの不利な条件を負っている人に対し、「不当に」侮蔑的な扱いをして優越感を味わおうとすることの謂いであろう。

殊に、優越感を味わうことを嫌悪する「人間」は先ずいない。

生身の人間で、万一「劣等感」を味わうことを好む者がいれば、精神性疾患を疑われても仕方があるまい。

ことほど左様に生身の人間は、「優越感」を味わうことを好み、それこそが競争心や向上心、或いは闘争心に結びついて行く。

だが、競争心とか向上心、若しくは闘争心などが、文明発達のための重要な原動力になったことは否定出来ないだろう。

無論、「好奇心」と言うものの持つエネルギーも無視するわけでは無い。

「ほんと、難しいわね。」

「根拠も無く、侮蔑的に扱うのは感心せんことぐらいは判るけどな。」

その根拠とやらに、いったいどれほどの客観性があるものか、それが一番の問題だろう。

「じゃ、根拠があればヒトを侮蔑的に扱ってもいいのね。」

「そりゃ、良いに決まってるだろ。例えば非人道的なことを平気でやるヤツとかな。」

「へえ、じゃ秋津州人はアメリカ人を侮蔑的に扱っていいってことになるわよね。」

「え?」

「だって、アメリカ人は去年この秋津州で随分非人道的なことをやったじゃない。」

当時のワシントンが、のちの出兵の正当性を重からしめるために、露骨に同胞を見殺しにしたことを、上院特別委員会が公式に認める決定をしている。

「おいおい。」

「でも、自分が侮蔑的に扱われるのだけは嫌なんでしょ。」

「そりゃそうさ。ま、それも程度の問題かな。」

「それにしても、あの人のは相当ひどかったわ。」

無論あの人とは、ジョージ・S・ベクトルのことだ。

「そんなに日本人を差別したのかい?」

「少なくとも、ご夫妻がそう感じてらっしゃることだけは確かね。」

「それで、陛下は何と仰ってるんだい?」

「何も。」

「え?」

「ご夫妻とも、何も仰らないわ。」

「ほんとかよ。」

「ほんとよ。ただ私たちおそばの者が察するだけよ。」

タイラーは知るまいが、これは明らかに偽りだ。

このような微妙な問題で、京子が専断することなど有り得ないのである。

「じゃ・・」

「トムなんかも、気を付けた方が良いかも・・」

「え・・」

「それに、ベクトルグループにトムの座る椅子なんか、もう無いんじゃないかしら。」

「あ・・」

この件は、未だジョージと自分しか知らない筈なのだ。

それが、もうキャッチされてしまっている。

「ま、それもトムの自由だけど。」

「ちょっ、ちょっと待ってくれよ。ベクトルを潰す気か?」

「人聞きの悪いこと言わないでよ。私たちはそんなもの潰すとか潰さないとか考えたことも無いわよ。」

天下のベクトルをつかまえて、「そんなもの」呼ばわりしてこきおろしている。

「ほんとだな?」

「ほんとよ。ただお付き合いしたくないだけよ。」

「う・・」

「それこそ、こっちの勝手でしょ。」

「それは、そうだが・・・」

「だが・・何よ?」

「い、いや、何とかお詫びが叶わないだろうかと思って。」

「・・・。」

「だから、もう一度会わせてもらって、ちゃんとお詫びがしたいんだよ。」

「そうすれば、トムの座る椅子も確保出来るのよね。」

「何もかも判ってるくせに、そんなに苛めるなよ。」

「でも、お詫びお詫びって言ったって、あのヒト本気で謝る訳じゃないでしょ。」

「そんなことないよ。」

「だって、さっき散々言ってたこと全部あのヒトの本音じゃないの。」

「そ、それは・・」

「今更撤回したって、並べ立てた本音が変わるわけじゃ無いでしょ。」

「う・・」

「ご夫妻があのヒトの本音を判っちゃってるんだから、今さら表面だけ取り繕って謝ったって、どうなるものでも無いわ。」

「駄目か。」

「駄目も何も、あんなにこちらを蔑んでるヒトとわざわざ付き合う気になるわけ無いでしょ。」

「すると、ここからあとは、どう言うことになるんだい?」

「知らないわ。」

「そんな・・」

「マーケットにでも聞いてみることね。」

全てはマーケットが決定してくれると言う。

「そうか、駄目か。」

「ヒトのことより、自分のことを心配しなさいよ。」

「う、うん。」

「あ、結局自分のことを心配してここに来たわけよね。」

ベクトルが倒れれば、当然自分の座る椅子も消えてなくなり、ことと次第では現在の職まで失ってしまう。

「否定はしないよ。当然だろ。」

自分のことを心配するのはごく自然のことである。

「なかなか正直ね。」

「どうせ隠しても無駄だからな。」

「うふふ。」

「まったく、なにもかもお見通しなんだからなあ。プライバシーも何もあったもんじゃない。」

但し、この諜報活動を秋津州が公式に認めている訳ではない。

京子の言動は、あくまで一日本人としてのものであり、なおかつ京子は単なる民間人に過ぎないのだ。

「へえ、トムにそんなこと言う資格があったとは驚きだわねえ。」

「合衆国はここまではやらないよ。」

「ちょっと、日本語間違ってるわよ。」

「え?」

「やらないよ、じゃ無くて、やりたいけど出来ないよ、でしょ。」

ワシントンが諜報関連に膨大な予算を費やして来ているのは、周知の事実だ。

今更、道義上のことを云々する資格などあるわけが無い。

肝心なのは、それをらくらくと実現する技術であり、それは秋津州に有って、合衆国には無いものなのだ。

「そう言われちゃうと身も蓋も無いよなあ。」

「だいいち、ワシントンにはいろんなヒトがいるし、注意してないと危なくて仕方が無いわ。」

「もう、これも否定する気は無いよ。」

今更惚けても、全部知られてしまっているに違いない。

「あら、アシトン国務長官が更迭されるみたいよ。」

ワシントンに張り巡らせたネットワークが、大統領の決断をキャッチしたのだ。

ホワイトハウスの主が、ベクトルを見捨てたことになる。

「げっ、ほんとかあ?」

「心当たり、あるでしょ?」

この国務長官がベクトル社の人間であることはつとに有名で、それを抱え続けることは、対秋津州政策としてはいかにもまずい。

「ペンタゴンはどうなんだ?」

国防省にも、相当数のベクトルマンがいる。

もっとも、CIAその他の省庁においても同様で、その流れで行けば、当然自分自身の身にも降りかかってくる火の粉なのである。

「さあ?ワシントンに聞いてみたら?」

女神は満面に笑みを湛えている。

「まさか、議会は無事なんだろうな。」

「辞職するヒトもいるかも知れないわね。」

「確かに表面は紳士面して、内実は相当スキャンダラスなヤツもいるからな。そのネタを突きつけられたら、ひとたまりも無いだろうしな。」

「ビルなんか、躍り上がって喜ぶようなネタもあるけど。」

ビルとは無論NBSの秋津州支局長である。

「しかし、秋津州は恐ろしい。」

事実秋津州のネットワークは、合衆国においても相当数の要人の個人情報を握りつつあり、そのほとんどがターゲットの社会的生命を一瞬で葬り去るほどの威力を秘めている。

現にこのタイラーにしても、ベクトルの椅子と交換に情報を流す取引に応じており、これがビルの知るところとなれば先ず無事には済まない。

「アメリカほどじゃ無いと思うけど。」

実際、合衆国のやり口はもっとあくどい。

積極的におとりを使い、女、カネ、麻薬、賭博、ありとあらゆるトラップを仕掛ける。

無論、本人だけでなく、その家族をターゲットにすることにも全く躊躇することは無い。

もっとも、それもこれも合衆国に限った事ではないのである。

「そう来ると思ったよ。」

「最近は、大分素直になったわね。」

「お褒め頂いて光栄だよ。」

「いえいえ、お互い平和に暮らしたいものよねえ。」

女神さまとしては、これ以上、けんかを売るような真似は慎むよう忠告してくれているつもりなのだろう。


さて、さまざまに取り沙汰された秋津州王妃の誕生日も、特段のイベントなど開かれることも無く過ぎ去り、当日の国王夫妻は日本と秋津州を往復して平穏の内に時を過ごしたと報じられた。

秋津州から一切の取引を断たれたベクトルは、その後膨大な固定資産を換金する必要に迫られ、必死の足掻きを続けていたが、その命脈も既に尽きたと囁かれ始めていた。

一部の口座が凍結されたことにより、一気に資金繰りが逼迫し、あのジョージ・S・ベクトルが本気で頭を下げるところを見たと言って驚くものも出た。

彼が国王夫妻の逆鱗に触れてから、僅か一週間ほどの短期間でマーケットが結論を下したことになるのだろう。

その一方で、コーギル社が秋津州商事との緊密な関係を囁かれ、ダイアンが足繁く内務省に通う姿が目撃されると言う。

彼女が頻繁に会っている相手は秋元雅と言う女性だとされ、彼女は秋元京子氏の末の妹に当たる人物でもあり、俄かに各界の注目を浴びることになった。

この一見少女のような日本人は、株式会社秋津州商事の役員でもあり、一説によると新田源一のオフィスにも出入りし、最近ではタイラー補佐官の実質的な窓口にまでなっていると言われる。

無論、秋津州側に立った窓口の意味だ。

タイラーが内務省に日参していることは多くの目撃証言もあり、連日の内務省詣でこそが、彼の首が繋がった最大の理由だとみる向きも多い。

ワシントンでは、ベクトルに関係が深いと見なされる高級官僚が数多く失職し、時ならぬ大人事異動の真っ最中なのだ。

無論、秋津州王家を憚っての処置であることは明らかで、政財官界が地すべり的に変動を来し、悲喜交々の光景が随所に見られると言う。

今までベクトルの影に圧伏されていたと見られる、言わば反ベクトル勢力の大反攻作戦が功を奏した結果だと言う説もあるが、取りも直さず、合衆国政府からベクトル色が一掃されることになり、このことが、ベクトル社の凋落に一層拍車を掛けることに繋がったことだけは確かだろう。

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  1. 2006/12/29(金) 23:27:18|
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