日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 075

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さて、太平洋上の秋津州は、今日も晩夏の太陽がじりじりと照りつけ未だ立派な真夏日だ。

その山河は溢れんばかりの緑に包まれ、広大な農地は豊かな実りの近いことを告げてくれており、年若い国王の辛苦が報われつつある事を物語っているようだ。

治水目的で掘削された巨大な遊水池は勿論、そこから潮入り湾まで掘削された小川にいたるまで、さまざまな淡水魚が姿を見せるまでになり、小規模のものなら漁業にも適するまでになって来ているのだ。

昨今では周辺海域においてもかなりの魚影を見るまでになり、国王自身漁船を駆って実験的な漁に出ることもあると言い、数年を経ずして、他国に対する漁獲の割り当てすら有り得ると囁かれるほどなのだ。

また、王妃の身の内に新たな生命が芽吹いていることが知れ渡り、中露朝などにいたっては、国家元首自らが麗々しく祝意を述べに訪れ、やがて来る出産にそなえ、王妃の両親も近々居を移して来ると言う噂まである。

長らく続いていた秋米間の緊張にしても今や大幅に緩和され、米英も含め各国要人が頻繁に訪れるようになって来ており、日本の場合も国井義人や大泉元総理はもとより、新総理まで王宮を訪れたと言う。

殊に新総理には、直前の選挙の目玉として大きく掲げた公約があった。

無論原発の廃止であり、その代替えとしての永久原動機方式の採用なのだが、実行するには種々の根拠法を整備しておくことは勿論、放射性廃棄物の処分と言う大問題もあって、政策課題としては容易ではないが、総理自身が直接これ等について協力を要請したところ、国王の反応は決して悪いものでは無かったと伝えられ、総理の鼻を格段に高からしめてしまったことも事実だろう。

「一内閣一事業」などと言う言葉もある通り、新内閣の張り切りようも尋常では無い。

新たに設えられた諮問委員会は、原発反対論者や専門家などを多数招致して活発な議論が行われ、漏れて来る不確定情報によれば、基幹部分の工事については全て秋津州側の手になる見通しも立ち、そのコストについても全くの無償だと言う。

用地の手当ての進捗如何によっては、意外に早い展開も有り得るのではないかとまで囁かれ始め、甚だしい例では、建設工事が近日中にも開始される見通しだとされ、その案件の全ては、総理が秋津州から持ち帰ったものであることを、大きく評価する論説が巷を駆け巡った。

メディアはもとより、さまざまな市民団体などは、新政権の施策を口々に讃え誉めそやし、最早、熱狂的ですらあったのだ。

圧倒的な世論にも押され、冷静かつ否定的な論調などは、すっかり影を潜めてしまった。

電力に関するインフラは、いずれの国家にとってもその基幹をなすほどのものなのだが、不思議なことに、それを他人任せにすることの危うさなど全く問題にもされず、内閣の支持率に至っては九十パーセントを超えるものまで出る始末で、新総理は今やすっかり英雄扱いだ。

秋津州国王は言わば新総理に花を持たせてくれたことにはなるのだろうが、実際には全て新田の判断だったと言う説もあり、それによれば、今以て新田が対外政策の多くを裁断しているとされ、国王の関心は専ら農事に向かっているとされる。

現に王宮のある村落などは絵に描いたような田園風景で溢れ、浮世の利害得失とはいかにも縁遠い雰囲気を漂わせていると言う者も少なく無い。

尤も、それに引き比べて近代建築が立ち並ぶ首都圏では、中でも秋津州ビルが傲然たる威容を誇っており、その姿をまるで他を圧伏して聳え立つ巨城のようだと評する者もいる。

屋上には、さまざまな巨大アンテナや大型ポッドの発着スペースが備わり、災害時に備えて常に出動の構えを取るヒューマノイドは数百万もの大部隊だとされており、一度などは某国の部屋から出火したことがあったが、そこが五十階以上の高層階であったにも拘わらず、その対応の素早さには目を見張るものがあったと言う。

このヒューマノイドたちが巨大な機材を背負って瞬時に飛来し、空中から圧倒的な威力を見せ付けたのだ。

その結果、一人の犠牲者も出すこと無く、ごく短時間の内に消火することを得たことで、巨城の安全性を大きく裏付けることになったと言う。

広大な敷地内には近代的な医療施設ですらとうに完成し、先進的な医療が行われていることも広く知られ、居留外国人たちが賃借物件の内部に宗教施設を設えるまでになって来ており、彼らにとっての安定的な日常は充分担保されている筈だ。

今ではほとんどの国の代表部が巨城に入居を果たし、大小さまざまな会議室では多国間会議が度々催され、近頃では例の五カ国会議でさえその一室で行われることが多いと言う。

無論、国際上の懸案事項は依然として山積している。

この世界に多数の国家がある以上、その利害が全て一致することなど有り得ないことなのだ。

だが、この国の国王夫妻はそう言う世俗からは超然たる姿勢を保ったまま、相変わらず大勢の児童や農夫たちと睦み暮らしており、その周囲には、まことに穏やかな時が流れていたのである。


一方、このような環境の中で時を過ごすタイラーは、このところワシントンの覚えもとみに目出度く、そのこともあって一段と良好な体調を取り戻しつつあった。

彼の胃の腑がその外貌に似合わずまことに繊細だったこともあるが、その胃を苦しめ続けた、あの凶悪なまでの秋津州は今は見えないのである。

かつての秋津州は、合衆国の生存権を絶え間なく脅かし続ける恐るべき猛獣であった。

如何なる手段を以てしても制御不能の野獣だったのである。

そもそも秋津州は、太平洋上に突如出現した国家であり、その国土面積もいたって小さい。

だが、その小国が見る見るうちに勃興し、腹立たしくも、たかがモンゴロイドの支配する小国が、無作法にも白人キリスト教文明圏の全てを軽々と圧倒し去ったのである。

ところが昨今のワシントンにおいては、この猛獣が案外温和な性格の持ち主であることが取り沙汰され、あえて猛り立たせない限り合衆国の安全は担保されると見る者が増えた。

無論、この猛獣をあえて猛り立たせたいと願う者などいる筈も無いが、現に一昨年のベクトル社の例もある。

あのときのベクトルは、そのトップがわざわざ請い願って謁見しておきながら、ご夫妻から、もってのほかのご不興をかってしまった。

そもそもベクトル社代表ジョージ・S・ベクトルは、散々に苦労した挙句ようやく謁見の機会を得た筈であり、彼にしてみれば、ひとたび謁見の栄に浴することが出来さえすれば、必ずご夫妻のご機嫌を取り結ぶことが出来る筈だったのだ。

しかし、良かれと思って用意した筈のプレゼントが、皮肉にも逆に王妃の怒りを買う結果を生み、あまつさえ、そのことがベクトルの命取りになってしまった。

秋津州側から一切の取引を断たれ、そのことが知れ渡るや、ほとんどのビジネスの芽を摘まれてしまう羽目になったのだ。

それも、短期間の内にまるでドミノ倒しのように取引先が次々と手を引いて行き、そのことが嵐のような信用不安の呼び水となってしまい、あれほどの巨大企業が大音響と共に崩壊し、遂には跡形も無く消滅してしまったのである。

あえて秋津州を敵に回してまで、救いの手を差し伸べようとする物好きなど一人も現れる筈が無い。

この破綻劇が、全世界に衝撃を以て受け止められたのも当然だ。

傍観者たちは、全身が総毛立つ思いで壮大な破綻劇を眺めていたのである。

結局、このことから最も多くを学んだのは世界中の営利企業であって当然だが、各国の当局筋にとっても対岸の火事とはなり得ない。

何せこのシナリオの一方の主人公であるジョージ・S・ベクトルは、従来から非常な自信家として知られ、常日頃から「例え合衆国が滅び去ることがあっても、我がベクトルが滅びることは無い。」とまで豪語して憚らなかったほどであり、同時にそれが世界の常識でもあった。

そのベクトル社でさえこうだったのだ。

如何なる企業にとっても、ことと次第によっては、いつなんどきベクトルの轍を踏まないとも限らないと言う貴重な教訓になり、同時にタイラーにとってもまことに重大な戒めとなった。

いきさつから言っても、他人事どころではなかったのだ。

思えばあのとき、彼自身が、あのベクトルの巨城の中に、華麗な足掛かりを得ると言う眩いばかりの幸運の中にいたのだが、図らずもその直後に起こったあの破綻劇だったのである。

当然、彼自身の幸運も、あっと言う間に遁走して行ってしまった。

挙句に、重厚に積み上げてきたキャリアまで失いかねない状況に追い込まれてしまったのだ。

とにもかくにも秋津州の忌諱に触れることの無いよう、万全の気配りをすることが肝要なのである。

もっとも、忌諱に触れるも何も、その根っこにあるものは至って単純なものばかりだ。

要は、その誇りを傷つけるようなことをせぬよう注意を払えば良いだけの話なのである。

従前のように、白人としての人種的優位性などを、これ見よがしに鼻の先にぶら下げたままご夫妻の前に出るなど、最早とんでもないことだと言う強い自覚が必要になっただけの話だ。

己の誇りを傷付けられて喜ぶ者などいる筈も無いが、ただ、あの夫婦が他の者より、ほんの少しばかり誇り高く生きているだけなのだ。

そのためにも王家との間に強力なパイプを構築し、我が国との意思の疎通を一層円滑にすべきであり、それこそがタイラーの主たる任務である以上、現在のか細い糸はなおのこと大切に扱う必要があるだろう。

ここに来ての最も大切な糸は、秋元姉妹の中でも一番下の雅を通すルートであり、今のタイラーにとっては彼女こそが女神さまなのだ。

無論常に最上級の敬意を払って接するよう努め、今日も今日とていつもの店に席を取り鄭重に招いていた。

そこは、女神さま自身がお気に入りの場所のことでもあり、今では大好物となった「海のいのしし」を賞味し、より交誼を深めつつ、貴重な情報を収集するつもりなのである。

二人の間の隠語では依然「いのしし」のままであったが、タイラーにもこれが猪で無いことは判っているが、それでなお、その嗜好は変わらない。

従来までなら、鯨と聞くだけで胸の奥底から何かが湧き上がって来るような気がして、即座に拒否反応を起こしていたものが、近頃では、属僚たちまでがそのステーキどころか生肉まで喰らうようになって来ているほどだ。

現に首都圏のそちこちでも冷凍鯨肉は極めて安価な食品として売られており、部位にもよるが、概ね輸入牛肉の二十分の一ほどの低価格であり、ヘルシーな特質とも相俟って、今ではかなりの量が日々居留外国人の胃の腑に納まっている筈だ。

パッケージには、鯨肉であることは勿論、丹後、但馬、丹波などの産地名が堂々と表示され、それが地球外天体の産物であることを隠そうともしていないことから、現在では全てワシントン条約の対象外だとされた上、既にさまざまな機関や企業がこの鯨類が地球上に棲息するものと同種同類としており、昨今ではあの大コーギルのネットワークに乗って盛んに出荷されるまでになった。

欧米系のメディアなどでは、鯨肉の食品としての優位性を大きく取り上げ、近い将来には膨大な量が出回る可能性まで示唆しており、ゆくゆくは肉牛の消費量にも影響を与えるとして、警戒感をあらわにする生産者団体まで出始めていると言う。

一方で飼料用穀類の販売量が減少する可能性もあるが、その分を補って余りあるほどの利益を見込んでのことだろうが、ダイアン自身がその商品としての将来性に着目して、さまざまにメディアに働きかけている節もあり、この点でも、あの大コーギルの力を侮ることは出来ない。

少なくとも秋津州ではその人気はなかなかのもので、最近ではタイラー家でさえ夫人のレシピに度々登場するほどだが、そもそもタイラー自身が鯨肉を嗜むきっかけを作ったのも、今正面の席についているこの美少女なのである。

美少女と言っても実は国王と同年の筈なのだが、タイラーの目にはどうしても若く写ってしまう。

今も女神さまは汗の痕一つ見せること無く、純白のシャツブラウスの袖を涼やかに揺らせながら、「いのしし」の刺身を口に運んでくれている。

「いつ食べても旨いですなあ。」

本音なのである。

「・・・。」

輝くばかりの女神さまは無言で笑顔を返してくれており、ありがたいことに今日もご機嫌は悪くは無いようだ。

「君に教えてもらわなければ、こんな旨いものを一生知らないままで終わってしまっただろうなあ。」

「それは、よろしゅうございましたこと。」

「感謝せねばならんな。」

タイラーは精一杯の笑みを浮かべて言う。

誰が見てもこう言う笑顔を典型的な追従笑いと言うに違いない。

「・・・。」

無言の美少女は、ゆったりと冷酒を愉しんでいる。

「そう言えば、いよいよあれも完成したようですな。」

あれ、とは、永久原動機を動力とする潜水艦群のことだ。

「そのようですわね。」

一隻のテストベッドの試験運行の結果からは、さまざまに有用な提案が生まれ、それを盛り込んで建艦作業が行われて来ており、それが完了したのはつい先ごろのことだと聞いた。

何せその作業には合衆国海軍から派遣されている者たちも立会っており、ワシントンも十分に承知していることなのだ。

承知しているどころか、米国側も既にこの方式を採用すべく企図を固めてはいるが、秋津州と同等のクォーリティを確保出来るとは限らない。

何しろ、建艦工程の進捗速度が圧倒的に違う。

秋津州港には大型のものだけでも四十以上ものドッグがあり、そのそれぞれが最大級の航空母艦でさえ、概ね一ヶ月ほどで完成させてしまうほど驚異的な造船能力を持つとされ、その背後には大規模な付属工場が建ち並び、天空には銑鋼一貫工程を持つ製鉄設備が稼動しており、地上を結ぶ輸送機までが自在に往来して素晴らしい作業効率を実現しているのだ。

「とりあえず、三十二隻が進水したそうですな。」

事実である。

この中型の攻撃型潜水艦は、排水量四千トン、五百三十三ミリ発射管六本を具え、他の追随を許さないほどの優れた静粛性と群を抜く快速を持つ。

無論動力は永久原動機を用い、理論上の潜水航続距離も無制限、安全潜航深度六百メートル、水中巡航速力四十五ノット以上と言う途方も無い数値を達成していると聞いた。

「いえ、四十隻ですわ。」

「あ、戦略型もでしたか。」

大型の戦略型と呼ばれるものも、同時に建造中だったのである。

「ええ、今しがた残りの八隻が試運転を始めましたわ。」

「早速、北極海に向かわせるつもりなのかい?」

それは、垂直型発射管二十四基を備えた一万トン級の戦略型潜水艦なのだ。

通常は北極海の海中に配備され、言わば海中のミサイル基地として機能し、少なくとも北半球に存在する全ての国家に睨みを利かすことが可能になるのである。

万一母国本土が攻撃を受けた際には、海中から瞬時に報復攻撃を行うことを目的とした戦略兵器であることは言うまでも無いが、八隻も常備していれば常に二隻は当該海域に配備しておける筈だ。

無論、戦略的抑止力として有効ならしめるためには、超長距離核ミサイルの搭載が必須なのだが、艦の実質的な保有国である日本には未だにそれが存在しない。

「艦籍も秋津州ですし、未だそこまでは行ってないと思いますわ。」

日本はその国内事情から言っても、これ等の艦に日の丸を掲げるわけには行かない筈なのだ。

まして、肝心の打撃力である超長距離核ミサイルを持たない以上、このまま当該海域に配備したとしても、言わば張子の虎でしか無く戦略的には何の意味も持たない。

「しかし・・・・、日本は、核ミサイルの開発にまでは踏み込んでない筈だよなあ。」

日本が核装備の準備に手をつけていないことは、ワシントンの誇る強力な諜報網が、充分な裏打ちを与えてくれている。

「その辺までは判りかねますわ。」

婉然と微笑む美少女を見ながら、はっと思い当たった。

「あっ、核ミサイルまで秋津州から・・・。」

さては、実際の就役配備の最終段階になってから、秋津州製の核ミサイルを搭載する手筈なのか。

小心者の補佐官の胸の中では、疑心暗鬼と言う鬼がやにわに踊り狂ってしまったのだ。

秋津州の科学技術の超先進性から見て、核ミサイル程度の技術など、とうの昔に保有していると考えた方が自然だろう。

それについては合衆国ばかりか、英仏独の当局筋当たりも全く同意見の筈だ。

その前提で考えれば、あとは日本側がその気になりさえすれば、極めて高性能の戦略型潜水艦までが、一気呵成に配備され得ることになってしまう。

何せ、一部の艦に至っては、海上自衛隊が主体となって操艦していると言う、れっきとした事実があるのだ。

ただし、その艦籍は全て秋津州にある。

そのため、各艦の艦長として、秋津州の軍籍を有する女性士官が指揮を執る形式だけは保持しており、海上自衛官たちはあくまで合同訓練のための乗艦だとされている。

尤も、生身の自衛官は基本的に三交替制を採るため、少数の彼等だけではとても手が足りず、艦内任務のほとんどを無休のヒューマノイドが担わざるを得ないが、海自本部では、将来五千人ほどの配備を目指し鋭意準備を進めていると聞いた。

「それも、何とも申し上げられませんわ。」

女神は、否定してはいないのである。

「ふうむ、やはりそうなんだな。」

小心者は、ひたすら嘆息するほかは無い。

「・・・。」

女神さまは、意味ありげな微笑を湛えて見せるばかりだが、秋津州のD二やG四と呼ばれる超小型軍事衛星は、恐るべきことに、超低空を自在に飛行しながら情報収集にあたっているらしく、今や全地球規模の諜報網を構築済みであることは確実とされており、それと連携する軍は断然近代戦の王者足り得るのである。

事実とすれば本来重大情報になる筈だが、知ったからと言って今の合衆国にそれを阻む力は無い。

日本が「核兵器の不拡散に関する条約」にも加入し、核保有の意思を放棄しているとは言え、既に従前の国際的規範などは、あの魔王の手によって根底から覆されてしまっており、ワシントンが国際世論を喚起して集団の名を以て問い詰めて見ても、日本が素直に核兵器の保有を認めるとも思えない。

国際原子力機関(IAEA)の査察に関しても、現在のような日秋関係がある以上、日本国内などいくら調査して見たところでほとんど無意味だろう。

だからと言ってイラクに対したように、一方的に攻撃を加えるなど出来ることではない。

秋津州の諜報網の底知れぬ威力は今までも折に触れて痛感させられて来ており、ワシントンが日本攻撃の意図を固めたりすれば、瞬時に察知されてしまったとしても何の不思議も無いのである。

日秋関係が従前通りの緊密さを保持する以上、合衆国は凄まじい先制攻撃を覚悟しなければならないだろう。

完璧な独裁が許されている秋津州では、開戦に際してさえ国王一人が完全な権能を有している上、秋津州は今もなお厳然として戦時体制を採り続けており、秋津州軍は魔王の号令一下、文字通り瞬時に動くことが出来る筈だ。

議会における戦時予算や開戦の承認など、全く不要であることから見ても、疾風怒濤の攻撃が即座に開始されるのである。

先ずは、わが国の誇る全ての軍事衛星が全機能を停止させられてしまい、次いで、米本土の軍事基地は勿論、北極海の海中に配備した動くミサイル基地でさえ、おそらく一発も撃てずに沈黙させられてしまうだろう。

同時に、日本国内どころか、北半球の全てに展開中の米軍の機能もきれいさっぱり失われ、栄光ある米軍は丸裸にされてしまった挙句、合衆国の領土は完璧に占領されてしまう。

最早、在外公館以外、地球上で星条旗の翻っているところは一箇所たりとも存在を許されず、合衆国は世界地図の上から消滅してしまうだろうが、過去においても似たようなケースは無数にあり、決して特殊なケースでは無いのである。

結局のところ合衆国は、せいぜい経済的な圧力を掛けるくらいが関の山だと言うことになるが、それですら、あまり多くの効果を望むことは出来ない。

場合によっては、そのことが敵対行為とみなされれば、結果は同じことになってしまう。

いつも通りに正義や道義の御旗(みはた)を振りかざして見たところで、あの魔王の傲然たる冷笑に出会ってしまうだけの話だろう。

ワシントンは、魔王の冷笑を前にして身動きもとれず、ただただ居すくんでいるほかは無くなってしまう筈だ。

そうなれば栄光のアメリカ合衆国が、魔王の玉座の前に、改めて拝跪させられたことが益々あらわになってしまう。

下手にこぶしを振り上げて見ても、結局恥をかくのはこちらの方であることが目に見えている以上、最も懸命な道は沈黙を守ることだ。

「ふうむ・・・・。」

タイラーはもう一度大きく嘆息し、女神の顔を改めて見詰めなおしていた。

長姉の京子とは異なり口数こそ少ないものの、それは実に表情豊かであり、その一つ一つが常に豊富な示唆を与えてくれるのだが、今はひっそりと冷酒を愉しんでいるだけで、それ以上の反応を見せない。

「ところで、秋津州湾内の水質調査の結果をお聞きしたが、ちょっと信じ難いほどのデータだったのには驚きましたなあ。」

タイラーは、已む無く話題を転じるほかは無かった。

「あら、どのデータですの。」

「いや、湾岸にあれだけの大工場群を稼動させている割には、湾内が外海とほとんど変わらない水質を保持している点さ。」

「その件ですか。」

「それも、湾口があんなに狭いにも拘わらずだ。」

秋津州湾は、東西に七十キロ、南北に二十五キロ、概ね二千平方キロもの水域を持ち、奥に進むに連れ急激な広がりを見せるが、その西側の過半は巨大な桟橋を多数具えた良港となっており、その奥まったところには巨大運河が走り、多数のドッグと工場群が活発に稼動している。

この人口湾には、いきさつから言っても湾口が一つあるきりで、その幅員はと言えば、僅かに五千メートルほどでしか無い。

仮に大きな袋があるとして、言わば、その袋にはごく小さな穴しか空いていないことになるのだ。

当然、ドッグや工場群から排出される大量の工業用廃水が、限り無く湾内を汚染してしまう筈なのだが、それにも拘わらず、湾内の水質が外海と同等の水準を維持していると言う。

「秋津州では、生活廃水も産業廃水も川にも海にも一切流してはおりませんもの、当然のことですわ。」

「ほお、強力な廃水処理施設が稼動しているとは聞いていたが、それほどまでとは思ってなかったよ。」

「廃棄物の処理にしても徹底していますわ。大部分は第四の荘園に運ばれてから最終処理の運びになるようですが。」

「なるほど、それで地下水脈の汚染も全く見られないわけですな。」

無論、地下水脈の水質データなども、頻繁に調査の対象とされ、調査結果もその都度公表されている。

「それに、湾内の汚水除去作業などにも、かなりお力を入れていらっしゃいますわ。」

現に、入港してくる船舶が排出する汚水なども、特殊なSDを用いて頻繁に吸引処理を行っている。

「しかし、そのコストたるや大変なものでしょう。」

「陛下は、土や水を汚すことを、とてもお嫌いになりますもの。」

「大気汚染に関しても、その浄化作業にあれほどの労力をお使いになってらっしゃる。やはり陛下は自然環境の悪化に対するご懸念がよほどお強いと見えますな。」

「陛下お一人が、特別にと言うこともございませんでしょう。」

「そりゃ確かに、地球環境をこれ以上悪化させないよう努力することが、全人類共通の責務だとは認めるがね。」

「地球を汚しているのも人類だけですから。」

「チェルノブイリを見ても、核などは殊にその罪が深いでしょうな。」

「スリーマイルもですわ。」

「そのせいで、原子力発電所の建設計画が全部ストップさせられちゃったくらいだからなあ。」

「放射性物質の毒性の強さは、やはり問題が無いとは言えないでしょう。」

「一旦漏れてしまったら最後、毒性の残存期間は呆れるほどに長い。」

「そのようですわね。」

核施設の外部に漏れ、地表に沁みこんだ放射性物質の齎す毒性の残存期間は、九百年にも及ぶと言う説まであるほどなのだ。

「そうすると、チェルノブイリ絡みの膨大な汚染土壌などは、現在どちらにあるのでしょう?」

「少なくとも、この地球上にはございませんから、ご心配無く。」

「無論、陛下の荘園のいずれかでしょうな。」

「はい。」

女神は、ひっそりと杯を重ねている。

どうやら、この話題に関しても質疑の打ち切りを宣告されてしまったようだ。

「あ、そう言えば話は違いますが、例の永久原動機を動力源としたヘリが完成したらしいですな。」

実は、米国においても、永久原動機を使用したヘリの開発はかなり前から行われて来ていた。

ただ、必要な出力を有する原動機を搭載するにあたって、その取付金具と機体の強度に問題が発生し、いまだに成功の目処が立たないでいる。

「そう聞いておりますわ。」

「性能面ではいかがでしょう?」

「あまり、詳しいことまでは存じませんが、搭乗者十人で巡航速度四百キロほどだと聞いておりますが。」

「ほお、そりゃ相当の高速ヘリですな。」

「そのようですわ。」

「しかし最大の取り柄は、途方も無い航続距離にあるのでしょうな。」

「天候と搭乗者の都合次第では、理論上無制限なのは確かでしょうね。」

「もう、生産ラインに乗ったのかい?」

「大分前から試験飛行中のようですわ。」

「カーゴフックや吊り上げホイストの容量なども、ずば抜けているとお聞きしているが・・・。」

「いずれにしても、正式発売までには多少時間が掛かるかと思います。」

「まことに勝手な願いとは思うが、テスト機を二機ほどお譲り願えまいか。」

思い切って切り出して見た。

ワシントンの狙いは、無論軍事転用の有用性を早期に判断するところにある。

ずば抜けた航続距離と性能を思えば、国境や沿岸警備、警察活動、救難救急などの用途まで想定しても充分魅力的なものと言って良い。

少なくとも、任務の中途で燃料切れの心配の無いことだけは確かであり、軍事的にも数千キロの彼方への作戦飛行も可能となる。

「判りました。そのように手配しておきますわ。」

女神さまが即断してくれたところを見ると、その完成度はかなりのものと見て良い。

「ありがとう。恩に着るよ。」

結局、のちに米本土で行われるテストの結果も良好で、これも又、タイラーにとって大きな功績の一つとなるのだ。

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  1. 2007/07/29(日) 15:24:44|
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