日本大好きじいさんの落書き帳

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告|
  3. トラックバック(-)|
  4. コメント(-)

自立国家の建設 077

 ◆ 目次ページに戻る

タイラーが秋津州国王の真意であるとして伝えた情報は、その後ワシントンの手によって麗々しく彩色された上で、極めて短時間の内に世界中を駆け巡った。

本来、ビッグニュースなのである。

ところが日本では、霊光原発問題ばかりが刺激的な彩りを添えて報じられ、あすにでも全土に死の灰が降るのではないかと言う観測報道が巷を賑わせ始めていた。

勿論その一方で、日本国内で稼動中の膨大な原発が、今までそれほど重大な爆発事故は起こしてはいないことを以て、今次の霊光も、それほどの危険性があるとは思えないとする論説も無いでは無い。

不思議なことに、半島統合のありかたについてのあれこれや、日本にとって真に喫緊の課題である筈の対馬問題などは、ほとんど取り上げられることは無かったのだ。

なお、国際社会の視点は、当然国際連合の安全保障理事会に集中した。

熱い視線を浴びる中、安全保障理事会は世界の平和と安全を維持するためと称し、くだんの決議案を全員一致で承認、それによって平壌の朝鮮共和国政府が、半島における唯一無二の政権として認められることとなった。

安保理決議、第千八百八十号である。

全て、ワシントンの手による周到な根回しが済んでいたこともあり、「秋津州の意図」が伝わるや否や、それこそ電光石火の早業であった。

そして程なく、半島においては、それに呼応する現象が現れた。

休戦ライン付近に分散して集結し、準備万端を整えていた朝鮮共和国軍が粛々と南下を開始し、休戦ラインを踏み越え、あたかも無人の野を征くが如く軍旅を進めるさまが報じられたのである。

これも、新たな安保理決議によって裏付けられた『自国内における治安出動』であって、決して他国に対する侵略行動などでは無いとされた上、聞けばその兵力も五十万と号し、大小の軍用車両も三千両を数え、そこそこの機動力を具えていると言う。

但し、その隊列には、装甲車はおろか、いわゆる戦車と呼べるようなものも見当たらず、無論ミサイル搭載車両など論外である。

とにかく目に付くのは全て軽武装の歩兵ばかりで、通常なら必ず連動する筈の砲兵部隊などその姿すら見えない。

もともと、その兵装が米国方式に統一されていることは周知のことであり、ことさら奇異なことでは無かったが、特段に目を惹いたのは、その軍が巨大な兵站補給機能を背景としていたことだ。

冷蔵能力まで具えた巨大なウェアハウスが多数、整然と輜重部隊に追従していたのだ。

それ自身が高速で飛行し得る上に、超低空で悠然とホバリングする能力まで有するため、それこそ万全とも言うべき兵站補給機能を発揮し得るものと言って良い。

如何なる軍にとっても、この兵站補給機能ほど大切なものは無い。

その機能こそは、軍そのものの規律を最低限維持させることに大きく寄与するものであって、なおかつその士気を高め活発な行動を担保し、更には沿道の住民たちに対してさえ、諸物資を潤沢に分配することまで可能ならしめているものなのだ。

また、そこから補給される潤沢な資材は、渡河地点における架橋工事の作業性をも格段に高めており、その結果、統一軍を名乗るこの部隊は、銃弾に代えて笑顔と物資をふんだんに振り撒きつつ軽快に進み、各地で大歓迎を受けることとなった。

何せ、それぞれの先頭車両で高々と統一旗を掲げているのは、つい先ごろまで、大韓民国の旗を振っていた者たちばかりなのである。

各地に盤踞していた筈の武装集団は、不思議なことに、いつの間にかひそひそと軍旗を降ろし、一般民衆の中に見事なまでに埋没してしまっており、全く抵抗の素振りさえ見せない。

とにかく、戦闘らしい戦闘が行われた形跡は全く見られないまま、僅か三日の後には、問題の霊光原発も平穏の内に運転を停止し、その他の原発も全てその制圧下に入ったものとされたのである。

挙句、各原発とその廃棄物の貯蔵施設などは土壌もろとも跡形も無く姿を消し、その跡は天空から運び込まれた大量の土壌を以て完全に埋め戻され、半島全域の核関連施設が全て消滅したことになるが、無論、全ての作業は「その国の正規の政府」から出た悲痛な懇請によるものであったと言う。

ほどなくソウルに入った朝鮮共和国大統領は、祖国統一の大業が成ったことを高らかに宣言し、民衆の歓呼の声によって賑々しく迎えられることとなった。

戒厳令こそ発せられなかったが、荒れ果てた各インフラの復旧整備についても早期に具体化させる旨の発表があり、比較的平穏のうちに「統治」が動き始めた。

近い将来には、新たに統一大統領の選出を目指す考えや、それが実現するまでの間は、緩やかな軍政を布くことも改めて打ち出された。

全てが手際よく進められていることを強く印象付け、この政権の政権担当能力を際立ったものに見せてはいたが、現実には軍そのものにも多数の米国人顧問が貼り付き、かつ大統領に引き添うようにして、相当数の米国人がソウル入りした筈なのだ。

しかし、その事実は日本ではほとんど報じられることは無い。

銀色のSS六改を駆る各国のメディアも、流血シーンを目にすることはほとんど無かった筈で、三十八度線以北に逃げ込んでいた民衆も早速一部が戻り始める勢いを見せたが、移動手段が限られていることもあり、彼らの帰郷が本格化するのはかなり先のことになると見られている。

山岳地帯に逃げ込んでいた多くの民衆も、街路にまで出て来て祝いの列に加わるようになり、殊にソウルなどにおいては、百万を越す大群衆が祝賀ムードを盛り上げていると報じられた。

やがて、圧倒的なボリュームを以て半島の空を飛び交う秋津州軍の姿が諸方でメディアの目に留まり、当然そのカメラにも頻繁に捉えられるようになった。

映像として一般大衆が目にするのは、全て女性型のヒューマノイドばかりだ。

その総数は数億とも数十億とも言われ、多くのメディアの推測によれば、恐らく秋津州軍の一個連隊であろうとされた。

また、この頃にはいわゆる永久原動機のことを、永久運動機関(PME:Perpetual Motion Engine)と呼ぶメディアが増え、今ではその呼称がやや一般化しつつある。

欧米においても、「秋津州パラダイムシフト」だとか「PMEパラダイムシフト」だとか言う用語が数多く聞かれるまでになったが、秋津州の出現、若しくは秋津州人が齎したPME等の超先進技術を目の当たりにした人々の多くが、その世界観を根底から覆されてしまったことを指して言っている言葉だと言って良い。

いずれにしても、秋津州の超先進文明が世界に与えた影響は途方も無い。

身の程をもわきまえず、その超先進文明に牙を剥いた国々の全てが、今や秋津州の衛星国と成り果ててしまい、自ら進んでその軍の駐留を受け入れているのである。

くどいようだが、秋津州軍は朝鮮共和国政府の懇請に基づいて駐留しているのであって、その懇請は、その政府が毎月定期的に発出する堂々たる公文書に拠っている。

それも、毎月秋津州時間の十五日までに日本政府が中継の労をとることとなっており、そのこと自体まことに重大な意味を持つ。

万一その文書の授受がなされなかったときは、これ等駐留軍の全てが無条件に撤収する規定となっているからだ。

現在、秋津州の衛星国と呼ばれる他の国々においても、その駐留のための条件は皆同様であり、現在日本との国交を持たない朝鮮共和国の場合などは、その文書は北京にある日本大使館に届けられることになっている。

何度も言うが、その授受が滞れば、強大なヒューマノイド軍がそれこそ瞬時に撤収して行き、その国はたちまちにして秋津州の庇護を失ってしまうことになるのだ。

無論、そのヒューマノイド軍団にしても、その動力源は全てこの永久運動機関(PME:Perpetual Motion Engine)である。

現在半島南部においても、このヒューマノイド兵士が大活躍を始めており、その手によって、発電機能を具えた医療用施設や物資の配給施設などが、凄まじい勢いで配備が進められ、そこには食糧やさまざまな生活物資はおろか、生活用水までが豊富に供給され続けている。

さらには、PMEを動力源とする発電所の建設も各地で始まった。

これ等一連の動きが、大きく破壊を受けた水道網や交通網を早期に復旧する気配を強く感じさせており、現地の人心は予想以上に鎮まっていると言う。


一方秋津州では、新田源一氏による久々の記者会見が行われることが伝わり、満を持していた各メディアが多数集結していた。

例によって長身の秋元涼氏を従えて登場した新田源一氏は、今では日本国の一官僚としての身分を離れており、記者団の目には、その姿が一段と興味深いものに映ったことは確かだろう。

従来の立場を離れたことにより、多少なりとも身軽になったその口からは、一味違った発言が出ることを期待する向きも少なく無かった筈だ。

記者団の一番の関心は、今次の半島の紛争に関して、実際に秋津州が関与したとされる、その内容に集中していたが、無論その他にも聞きたいことは山ほどにある。

当然、新田たちの退官のいきさつのこともあるが、新田個人のゴシップにも大きく興味を惹かれている者も多いのだ。

まして、そのゴシップのヒロインと囁かれる、秋元涼氏本人が同席しているのである。

殊に、日本の娯楽性の高いメディアにとっては絶好の機会なのであろう。

彼らの掴んでいる最新情報に拠れば、新田のお相手と目される女性は今や複数存在していることにされており、もう一人のお相手たるや、今次揃って職を投げ打った人々の中にいると言う。

それも、外務省準キャリアで三十代前半の女性の名前がしきりに挙がって来ている上、その女性とは相当親密な間柄が囁かれており、当然その点についても鋭いジャブを入れたいところだったが、新田が彼らの勝手な都合に斟酌する謂れは無く、淡々と記者発表の本旨について語るばかりだ。

無論本旨とは、平壌政権に対し新たに拠出した外貨支援についてであり、その額も米ドルにして五千億ドルもの巨額であることが、いよいよ公式のものとなったのである。

ある程度予想されていたこととは言え、その規模の巨大さは、世界のマーケットに最大級の衝撃を与えるほどのもので、今回もこの巨額の外貨が、猛烈な勢いでさまざまな資本を引き寄せるに違いない。

これ等の状況から、日本では、何もかもが万々歳であるかのような報道で溢れかえったが、それとは全く対照的に、欧米のメディアには辛辣な論調が目立った。

秋津州による強力な支援無くしては、半島はその全域が廃墟と化す他は無かった筈であり、朝鮮民族が成し遂げたとする統一の大業などは、結局のところ、全て人任せの事業であったと言うのだ。

無論、その人任せの「人」とは秋津州国王その人に他ならない。

事実、国王が半島につぎ込んで来た財貨は優に一兆ドルを超えてしまった。

今後においても、秋津州の圧倒的なパワーを抜きにしては、半島の安定的な発展など有り得ないとする論調が数多く見受けられ、単に休戦ラインが平穏の内に消滅したことを以て、統一の大業が成ったとするのは短絡に過ぎるとの論調が圧倒的なのだ。

詰まり、その将来性については、欧米の工業先進国の全てが未だに懐疑的な見方をしていることになる。

現に、東西ドイツの統合後のあれこれを見るにつけ、今後の半島がそれなりの地力をつけ、なおかつ真の意味の自立を果たすためには、その国民自身が人一倍汗をかく必要があるからだ。

さらに言えば、海外に脱出したままの(旧韓国国民の)富裕層が大勢いる。

彼らが戻り始めたと言う情報には未だに接する事が無く、そのほとんどは豊富な外貨を抱えたまま、遠い異郷の地でひっそりと様子を窺っている筈で、結局のところ、海外にいる国民自身ですら、自国の先行きに少なからぬ不安を抱いていると言って良い。

まして、他国民にそれを信じろと言う方が無理であろう。

いずれにしても、ユーラシア大陸の片隅にひっそりと突き出している朝鮮半島と言う名の小さなビンが散々に揺さぶられ、一時は旧韓国国民のほとんどが、休戦ラインの北側にごっそりと遷移してしまったほどなのだ。

結局、そのビンの中で数千万もの民衆が右往左往させられた挙句、辛うじて南北統一の宣言がなされたことだけは確かな事実であったろう。


さて、一方の日本国内においては、各メディアが当局に対して轟々たる非難の声を上げ始めていた。

霊光原発関連の危機的状況に対する無為無策振りを、その槍玉に上げたのである。

確かに当局は、対馬に暮らす日本国民の危機にあたって為すすべが無かったことは確かだが、かつて秋元雅も語っていた通り、現状ではそれも無理からぬことだったかも知れないのだ。

しかし、メディアの当局批判にはまったく容赦と言うものが無い。

ひたすら現地住民は政府に見捨てられたと言い、攻撃の手を緩めない。

つい先日まで英雄扱いしていた筈の大沢総理などは、一転して冷酷非情な人物として扱われ、その当事者能力の欠如と言う点でも、それこそ完膚なきまでに叩かれ続けたのである。

国民から大喝采を以て迎えられた筈の原発撤廃政策も、今やまったく色褪せてしまい、内閣発足当時の驚異的な支持率も一気呵成に急落してしまった。

もともと足並みの揃わない連立内閣は益々不協和音を発し、そのため始まったばかりの臨時国会においても更なる醜態を晒すこととなる。

野党である民自党もここを先途と攻勢を強め、内閣不信任案の提出も視野に入れていると囁かれ、俄然政局は風雲急を告げ始めた。


又、現地対馬においては、その当座は非常な緊迫感に包まれはしたが、今はようやく平穏な日々を取り戻しつつあると言って良い。

もっとも、その後においても引き続き大勢の秋津州人女性が滞在していたことは、本土ではほとんど報道されることは無く、ひっそりとことは進行して行ったのである。

滞在中の彼女たちの中でもその一部などは、かなり古くから滞在していた者たちであり、いずれもが充分に若々しく、その氏名も日本風であって、なおかつ外貌においても日本人そのものなのだ。

さらに加えて、上品な日本語まで自在に操って見せるのである。

自然、現地の人々との間にもそちこちで緊密な人間関係が形成されつつあり、やがて深々とそこに溶け込みながら徐々にその行動範囲を広げて行った。

最近では、その全員が豊かな財力を具えていることが広く知られるようになったためか、所有地の売却を希望する者が接触の機会を求めてくることが増え、売却の希望の強い人に限り、その話にも応ずるようになっているようだ。

その結果、複数の離島をも含め、相当広範な面積に及んでその所有権が移動しつつある。

それらの所有権登記は、全て日本人秋津州京子の名義で行われているが、間に立った彼女たちは手数料などびた一文要求することが無いと言う。

詰まり、彼女たちは業として不動産売買に関わっているのでは無く、個々の個人的な繋がりの中で、単に紹介の労をとっているに過ぎない事になる。

最近の報道によれば、彼女たちの在留資格は投資・経営に関わるものとされており、いずれもが久我商事と言う現地企業の幹部従業員だとされる。

だが、その私企業の代表者の氏名が、久我正嘉(まさよし)となっていたことは、少しも話題に上ることはなかったが、それは秋津州京子氏の実兄と同一のものであったのだ。


また、日本の本土に秋津州国王が気軽に出没していることが報じられ、その際の供奉の者は、最近滅多に顔を見せなくなった井上源三郎だったことがメディアの目を惹いていた。

その報道によれば、あの長身の若者が、松涛の白亜の邸宅や銀座の高級クラブなどにもその姿を見せたとされ、その上各所において、さまざまな人間との接触を重ね、もっぱら交誼を深めつつあると言う。

例によって、無責任な観測記事ばかりが数多く飛び交い、若者が接触したとされる相手方の名前をことごとしく書き立てるメディアも多く、その際もっとも頻繁に挙げられる名前は国井義人であった。

国井義人と言えば、さきの内閣において官房長官の要職を務め、今でこそ野に下ったとは言いながら、民自党の次期総裁の呼び声も高い重鎮中の重鎮である。

その上人脈から言っても、新田・岡部ラインの直接上辺に連なると言われた人物なのだ。

ここ数年来のいきさつから言っても、メディアにとっては格好のソースであり、核心を衝いているかどうかは別にして、その周辺に関してはさまざまな観測記事が巷に溢れたのも当然だ。

殊にイエローペーパーと呼ばれるものなどは、その記事にことさら刺激的な味付けをして、部数を伸ばそうとするものである。

曰く、既に国井義人を党首とする新党構想が存在し、その新党の最大の支持基盤こそ例の秋桜(コスモス)ネットワークであり、国井はただ一人ででも民自党を離党し、自らの信念に従って行動する意思を固めており、その場合の政党名も「新党秋桜」に決している、のだそうだ。

挙句に、結果的に追従して離党する現職議員は、衆参あわせて少なくとも百八十名、成り行きによっては三百名にも及ぶとしており、その帰趨を握っている者こそが、誰あろうあの秋津州国王だと断じている。

結局、あの若者が味方につくことが判然とすれば、もうそれだけで勝ち戦となり、場合によっては現与党の民生党の中からでさえ、合流しようとする動きが見込まれるとまで述べていた。

国井自身の思想信条は、かつて「憲法を守るために国民が存在するのではなく、国民を守るためにこそ憲法がある。」と発言したことが「憲法をないがしろにする妄言」だとされて、凄まじい集中砲火を浴びたことがあることからも明らかだ。

この日本を「ごく普通の国家」と為し、自立への道を真摯に探り続けている政治家としての評価が高い代わりに、殊に左派系政党からは、極右の軍国主義者だとして攻撃を受けることが多いことでも知られている。

前回の衆参同時選挙においては、憲法を改正して国防軍を持ち、日米安保条約を捨てて日米不戦条約の締結を目指したが、当時野党であった民生党の掲げる原発廃止論ばかりが多くの民意を迎える結果となり、結局、民自党の大敗を招いてしまった。

国井は、その敗北の責任を取る形で、今でこそ雌伏のときを過ごしてはいるが、「臥龍、雲を呼んで天に昇るのとき」を待って、満を持していると見るのが妥当だろう。

無論、龍が天に昇るためには雲を呼び寄せ、がっしりと掴まねばなるまい。

あの若者こそがその雲の一つであることは言うまでも無いことであり、当然、官民共に興味は国王の胸の奥に向かい、盛んにその忖度を繰り返すことになる。

過熱気味のメディアなどは、不確実な情報でも必死に喰らい付き、そのペン先の走りはさらに勢いを増して行くものだ。

うんざりするほどの怪情報が飛び交う中、やがて「新党秋桜」の結成が、最早単なる与太話などで無く、あたかも既成事実であるかのように扱われるまでになって来た。

だが、いずれのメディアもその前提条件としているのは、ひとえにあの若者との強い紐帯の形成に他ならないのである。

しかし、飄然と二国間を往来する若者は、その真意を垣間見せるようなことは絶えて無く、その点での報道は全て憶測の域を出ることは無い。

ただ、若者がクラブ碧のいつもの席で、幾たびか寛ぎのひと時を過ごしたことだけは事実であったらしく、一説によれば、碧の女性経営者を同伴して他の店にまで足を伸ばすほどだったと言う。

それは佐竹と言う銀座でも格別に名のある店で、そこの女性経営者とは顔馴染みだったこともあり、若者にとって気のおけない場所の一つでもあったのだろう。

まして、その客は、世界でも第一級の富豪である上、政治的にも群を抜く実力者でもあるのだ。

その店にとっても、相当な客寄せ効果がある上に、店自身の格付けにも関わることなのである。

佐竹の女性経営者自身が、クラブ碧にまで、わざわざ迎えに出るほどの歓待振りだったのも無理からぬことで、その願っても無い上客が、さして遠くも無い距離を上機嫌で往復したことまで報じられてしまった。

だが、これ等の事柄が物語っているのは、若者が今も自在に日本国内を闊歩しており、なおかつ、そこに何の障害も感じ取れないと言うことであった。

そのことが、政権が交替したからと言って、日本の秋津州に対するスタンスにことさら大きな変化が無いことを、内外ともに強く印象付ける結果にはなった。


又、その間、若者の外国訪問が数多く行われ、それはそれで国際的にも重みのあるニュースとなっている。

それは週当たり一日ほどのペースを守って実行され、驚くべきことに、そのほとんどが日帰りによる行程とされた。

詰まり若者は、一ヶ月に概ね五日間ほどを外遊日程に振り向け、その都度日帰りで帰国し、残りの日はのどやかな村落の自然の中で悠々と過ごしていることになる。

近々に訪ねた国々の中には、内乱状態にある国も含め多種多様の国家があり、ここ数ヶ月の間でさえ、それは五十カ国を超えるほどであったと言うが、無論、全て相手側からの熱烈な招待を受けてのことであった。

ことほどさように、秋津州の国王であり、かつ秋津州財団総裁でもあるこの若者を招待したがる相手はふるほどに多い。

だが、全く例外が無いわけでも無い。

実は、珍しくも若者の方から望んで訪ねた「邦」もある。

それは、北米大陸の内陸にあり、地図の上ではアメリカ合衆国とカナダに跨り、分散しながらもひっそりと、しかしながら確実にその存在を主張し続けている「邦」だ。

日本政府が未だに承認していない邦、そして誇り高きネイティブ・アメリカンの治める邦、それこそがこのイロコイ連邦である。

その邦は、唯一酒が飲めないことを除けば、若者にとって最も好もしい国の一つであった。

そこに棲む「国民」はネイティブ・アメリカン、実に彼らこそ新大陸の本来のあるじたるべきモンゴロイドである筈が、今現在においてなお、陰に陽に故無き迫害を受け続けていると言う。

しかし、彼らの邦は厳然としてそこに存在し、天にも地にも、森の木々の梢にさえ彼らの神は宿り、文明の利器と呼ばれるものこそ多くはないが、溢れんばかりの文化が確実にそこにはある。

それは、民族の伝統によって充分に醸し尽くされた、匂うばかりの文化なのだ。

若者は自身、その胸の奥底に荒ぶる魂を潜ませており、それも、一旦激してしまえば並みはずれた荒ぶれ方を見せ、容易に鎮まることを知らないほどのものだ。

ところが、ひとたびその地を訪れ、その天地に包まれるとき、得も言われぬ心地良さを感じてしまうものらしい。

それはまるで、和毛(にこげ)のような何者かにやわやわと抱(いだ)かれる内に、荒ぶる魂が自然自然(じねんじねん)と鎮められて行くかのような感覚なのである。

若者が、ごく短期間の内に二度もその地を訪れたのも宜なるかなではあっただろう。

まして、例え地球の裏側であってさえ、いざとなれば、そのための移動時間など全く不要なのだ。

先ごろの訪問先も、アフリカや中南米、果ては中央アジアから南太平洋諸国にまで及んだが、何れの場合でも、若者にとってはまるで自宅の縁先から庭先に降りるようなものなのである。

ほとんどの場合、従来と同様に訪問先それぞれの時差をも利用し、十二時間ほどの間に数カ国を経巡るほどの超過密スケジュールでありながら、それでいて現地に宿泊するケースは先ず無いと言う。

また、訪問先の国々は例外なく王妃を伴っての入国を期待するが、何せ彼女は初めての出産を控える身であり、当然、それを気遣っての単身訪問である以上、相手側としても諦めるほかは無かったろう。

ただ、世界にはまだまだ血なまぐさい紛争を抱える国が多く、若者の訪問に備え厳戒態勢を採るあまり、却って困難な状況に陥ってしまうケースも無いではない。

この世界には実に二百もの邦が有りながら、哀しいかな、曲がりなりにも統一が成っている国家は、意外に少ないと言う現実に突き当たってしまうのである。

 ◆ 目次ページに戻る

  1. 2007/07/31(火) 11:26:23|
  2. 妄想小説 主権国家|
  3. トラックバック:0|
  4. コメント:0
前のページ 次のページ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。