日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 083

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二千八年一月十二日。

秋津州では昨夜来かなりの冷え込みがあり、秋津州ビル正面の噴水まで凍りつかせてしまうほどで、首都近郊においても積もるほどでは無いにせよ僅かに降雪を見るに至っており、無論北方の山岳地帯などは山頂付近が真っ白に冠雪している。

鉛色に染まった空から時おり粉雪が舞い散る中、おりしも合衆国大統領特別補佐官はことさら重いものを胸に秘めたまま、さして遠くも無い距離を内務省に向かって車を走らせていた。

本国から取り寄せたリムジンのハンドルはいつも通りジムが握ってくれており、時おりフロントガラスを湿らす僅かな水滴を間歇ワイパーがしめやかに払拭してはいるが、タイラー補佐官の胸の曇りは一向に拭われることは無かったのである。

ケンタウルスだかなんだか知らないが、まったく、思いも及ばぬことばかり起こってしまう世の中なのだ。

人類が滅亡に至るタイムテーブルは今も無情に時を刻み続けていると言うが、その全体像を正確に把握している者は米国代表部の中でさえごく僅かな者に限られており、実を言えば、愛する妻にさえ未だに告げてはいないのだ。

ホワイトハウスで行われる定例記者会見においても、そろそろケンタウルスに関する質問が出始めており、中には相当穿った見方をする記者もいて、大統領閣下の側近の間にも別して疲れの色が見え始めていると言う。

彼等の間でも事態の深刻さについて疑問視する者は既に見当たらず、その対応策にしても丹波への移住以外に無いこともはっきりしてしまっており、あとは米国の国益を減衰させずに如何にしてそれを遂行するかに掛かっているが、それに関する重要な鍵のほとんどが又してもあの魔王の手の内にある。

ここに来てのタイラーは、当然ながら本国の訓令に強く背中を押され続けており、ここ数日来、いつもの女神さまとの会見をセットすべく必死に力を尽くして来たのだが、何故か色よい返事がもらえずに、非常な焦燥感を覚えずにはいられなかったのである。

恐らく女神さまは、全き多忙の中にあるのだろう。

無論、その多忙の原因は全てケンタウルスの件にある。

今にして思えば、この秋元雅と言う「美少女」は、つい先日の対話の中でさえ重大な示唆を与えてくれていた筈なのだ。

詰まり、相手側にはそれだけの「誠意」があったことになる。

当時の自分が、それをそれとして認識出来なかったに過ぎないことに気付かされたのは、情け無いことにごくごく最近のことであったのだ。

まして、たかだか二十二歳に過ぎない一人の民間人女性の市場価値が、近頃途方もなく暴騰してしまっていることを思わずにはいられない。

殊に五カ国協議などでは、新天地の領土配分に関する討議がラビリンスの迷宮に踏み込もうとしており、ことにあたって誰もが欲しているのはこの難問を解決するための近道であり、その道案内の役割を果たしてくれる筈の「アリアドネの糸」なのだ。

そして、各国の当事者たちの視界の中では、この年端も行かぬ美少女こそがアリアドネそのもののように映ってしまうのだろう。

無論、いまのタイラーにとっても、アリアドネの糸の在りかを示唆してくれるほどの相手は、どう考えても他に見当たらないのである。

自分は、いや合衆国は、何としてでも、その糸の先端を掴み取らねばならないのだ。

さもなくば我が栄光のアメリカ合衆国は、あのラビリンスの迷宮の中を永遠に彷徨うことにもなりかねず、もがき苦しみながら幾たびか繰り返された願いごとが今日になってやっと叶えられ、タイラーは今そこに向かっている最中だ。

指定された場所は内務省の最上階であり、いつものエレベータホールに降り立つと、驚いたことに出迎えてくれたのは女神さま自身であった上に、その先導によって導かれたのは、かつてただの一度も通されたことの無い部屋だったのだ。

相変わらず森閑としている長い回廊を渡り、ようやく行き着いた筈のその部屋が終着点では無かったことに驚く内、その部屋の奥のドアを通り抜けもう一つ隣の部屋に出たのである。

そして又、次のドアを開けると、そこにはそこそこの広さを持った階段があり、少し離れて堂々たるエレベータホールまでが視界に飛び込んできた。

先ほどエレベータを降りたところは確かに最上階の五階フロアであった筈が、どうやら未だ上の階があったらしい。

結局導かれるままに階段を上り、重厚な造りの回廊を進みながら見渡せば、両側に相当数のドアが並び、かすかに人の気配を感じさせる部屋もあるようだ。

その回廊は、天井の高さにしても三メートルはありそうな充分なもので、無論特別の圧迫感を感じさせるものでは無く、前々から囁かれていた、このビルの外観が異様な高さを持つことについての謎の一端がようやく解けた想いがしてくる。

ここは非公開のフロアだったのだ。

この分では、他にもそれがあるに違いない。

地上五階建ての外層を持つこのビルは、内層においては、恐らく十層以上あるのではないかと囁かれていたことは確かなのだ。

ひそひそと歩を進めるうちに、ほどなく目的の部屋に着いたようであったが、そこで再び驚かされることになった。

女神さまが開けてくれたドアの向こうに、なんと女神さまの総本家の顔が見えたのだ。

「おお、これはこれは。」

「いらっしゃい。」

長姉の京子が、六人掛けほどの応接セットから今しもにこやかにいざなうのである。

「いや、驚いたよ。」

見渡せばどこにも窓が無く、少々大きめの通風孔が目に付くだけで、一瞬気圧される気分を味わう内、案内して来てくれた年若い女神さまの方は、ひっそりと引き返して行ってしまった。

「ごめんなさいね、いつものリビング付近は当分使用中なものですから。」

「ほほう、どなたか賓客のご入来でもあったのかい?」

「まあね。」

この口振りでは、それ以上聞いても無駄だと察するほかは無い。

このとき、まったく見知らぬアジア系らしき女性が隣室から姿を見せ、優雅な挙措でお茶を運んで来てくれた。

小柄のせいかタイラーの目には十五・六にしか見えなかったが、透き通るような肌の素晴らしい美貌の持主で、細身の体型をきりっとしたビジネススーツで包んでいるところなども実に好もしい。

「どうもありがとう。」

お茶の礼を言うと、恭しく答礼を返しながら隣室へ去って行ったが、どこか憂いを含んだ端麗な目が特別に印象的であった。

「ニューフェイスだね。」

後になって吉川桜子と言う名だと知ることになるのだが、その娘には、妙に惹かれるものがあったことは確かだ。

「今度、アシスタントをお願いした子よ。」

「ほう、日本人なのかい?」

「秋津州人よ。」

「ずいぶん、お若いようだが。」

「確か、二十歳の筈よ。」

「へえ、それじゃあ立派な大人だねえ。」

「あなたねえ、女の子の話をしに来たわけじゃないんでしょ。」

「あはは、こりゃ失礼。」

「相変わらず呑気ねえ。」

「いや、面目ない。」

「こっちは、そうそう呑気にしてるわけには行かないのよ。」

「ごめんごめん、でも、相変わらず忙しそうだねえ。」

「やらなくちゃいけないことが山ほどあるんだもの。」

「しかし、このフロア、初めて入れてもらえたよ。」

「多分、アメリカ人としてはトムが始めてだったかしら。」

「部屋数もずいぶん多そうだが。」

「そうね。一DKが六十ほどかしら。」

実は、そのほかにもいくつかのオフィスがある。

「ほう、そんなにあるのか。」

恐らく、相当の人数を収容しているのだろう。

そうなれば、思い浮かぶ入居者たちも自ずと限られてくる。

例の岡部グループのつわものどもが、その拠点としているに違いない。

「ところで、今日はあたしじゃ不足かしら。」

いまさら、そう言われても面会を約束した筈の本人はとっくに姿を消してしまっているのだ。

「何を仰るやら。」

こちらとしては、むしろ京子が出てきてくれて、いっそ都合が良いくらいのものだ。

「あら、良かったわ。」

「しかし、京子の妹たちはみんな大活躍だよねえ。」

「それほどでもないでしょ。」

「千代さんは相変わらず神宮前を取り仕切ってるようだし、涼さんは新田氏の側近だよな。雅さんは雅さんで、民間外交の旗手として今じゃ有名人だしなあ。あと一人、ええと滝さんだったっけ?」

「そうよ。」

「そう言えば、滝さんも素晴らしい美人だったよねえ?」

「自慢じゃないけど、うちの妹たちはみんな美人よ。」

「今、どこにいるんだい?」

無論、秋元滝の行方である。

「あっちこっち動いてるわ、いまは確か丹波に行ってるかしら。」

「ほう、丹波かあ。あっちじゃ、どんな仕事があるんだい。」

「陛下の直轄領の整備を手伝ったり、皆さん方に分配する予定のあちこちの地を整理したり、やることはいくらでもあるわ。」

「うん、そのことなんだがねえ。」

「はい?」

「うん、・・・・。」

「だいぶ、言いづらそうねえ。」

「ちょっとな。」

「遠慮してると日が暮れちゃうわよ。」

「じゃあ、ずばりと言っちゃうことにするか。」

「どうぞ。」

「五カ国協議に中露を加えたいんだが、どんなもんだろう。」

魔王の出方が判らないのである。

何せ、中露両国は未だに秋津州の実質的な自治領だと言ってしまって良い国際環境が続いており、宗主国の了解無しでは彼等自身が二の足を踏む筈なのだ。

「あら、それなら、ついさっきも両方とも新田さんのところへ来てたわよ。」

中露二カ国の代表部の人間が来ていたと言う。

「ええっ。それじゃあ?」

「別に問題無いんじゃない。」

「ほんとかあ?」

「心配要らないと思うわよ。」

「そうか。」

「それより、どんどん時間がなくなっちゃうわよ。」

「うん、それは判ってるんだが。」

「ほんとに判ってるの?」

「う、うん。」

「まあ、中露も混ぜて自国領の既存の面積を、そのまま確保しようと必死なのは判るけど。」

「でも、当然だろ?」

「そのうち、時間切れになっちゃっても知らないわよ。」

「い、いや、これでけりがつくだろ。」

尤も、タイラー自身、実に自信なさげな表情なのだ。

「そうは思えないけどね。」

「だめかねえ。」

「だいたい、五カ国が七カ国になったからと言って、そこで全ての決定をしちゃおうって言うのが土台無理なのよ。」

「しかし、未だ秘密会にしとかなきゃならんだろう。」

それに大勢で話し合ったところで、余計紛糾してしまうくらいが落ちなのだ。

「まあ、ここで何か言ったりすれば、又あとで恨まれちゃうんでしょうから、余計な口出しは止めにしとくわ。自分たちで決めれば結果はどうあれ、誰も恨むことは出来ないでしょうからね。」

「いや、口を出してもらわんと何も決まらんかも知れん。」

「あらあら、ずいぶん弱気だこと。」

「結局、各国の国益の隔たりを完全に埋めることは不可能に思えて来るんだよ。」

ワシントンは別として、タイラー個人としての見解を聞かれれば、これこそが現在の本音なのである。

「じゃ、丹波の分配と言う陛下のご温情を無にすることになるわね。」

「いや、そうじゃ無いよ。」

「でも、結果としてそうなるでしょ。」

「そうならないようにするよ。」

「ま、好きになさいな。」

「相変わらず、突き放した言い方をするんだなあ。」

「だって、いつまでたっても堂々巡りの議論ばっかりやってるんですもの。」

「確かにそうなんだよなあ。でも、既存の領土面積を確保しようとするのは当然の権利だろ?」

「もう、なんにも言わないことにするわ。」

さも呆れた、と言う表情なのだ。

「人類の命がかかってるのはみんな判ってるんだから、いつかは判ってもらえるさ。」

「そうね。」

女帝の反応は極めて冷然としていた。

「ところで、王妃の兄さんがこっちに見えてるそうだが。」

「うふふっ、とっくに知ってるくせに。」

「そう、苛めるなよ。」

「別に苛めてるわけじゃないけど、何が聞きたいのよ。」

「いや、・・・・」

「また、言いづらいことなのね?」

「いや、NBS系列の女性ジャーナリストたちの件なんだけど、・・・・」

「あら、何かしら?」

「判ってるくせに、」

「おほほほ、要するに退去強制を心配してるのよね?」

「だって、以前は陛下以外の男性と交流すると途端に追放されちゃったじゃないか。」

「あらあら、それだったらビルの方からクレームがつくんだったら判るけど、何でトムがそんな心配しなきゃならないのよ。」

女帝は皮肉な笑みを浮かべている。

「いや、彼女たちも我が国の国民だからさ。」

「へえ、それで保護する義務があるって言いたいわけね?」

「うん、そういうことにしといてくれよ、頼むからさ。全部判ってる筈じゃないか。」

以前と違い今では、欧州勢やアラブ系に限らず多彩なメンバーが活躍し始めており、王妃の兄に対するハニートラップが無数に仕掛けられようとしている筈なのだ。

「そう。あたしに頼むのね。」

「うん、頼む。」

「判ったわ。」

「じゃ、いいんだな?」

「別にいいわよ。でも、今更あのルートがそんなに価値があるとも思えないんだけどねえ。」

「・・・・。」

「ま、何とやらは藁でも掴むってことわざも無い事も無いけど。トムもほんと大変ねえ。」

「うん、感謝するよ。」

こちらの願いが聞き入れられたことに違いはなく、ここはもう、何を言われても感謝しておくより他はない。

「未だ話があるんでしょ。」

女帝は早く言えと言わんばかりだ。

無論、例によって何もかも承知の上なのだろう。

「秋津州商事が大型の輸送ヘリを開発したそうだね、それも、まるっきりのプライベート・ベンチャーで。」

プライベート・ベンチャーとは、誰にも買ってもらえる保証が無いままで民間がまったくの自己責任で新機種の開発を行うケースであり、一定レベル以上の兵器の場合、その投資額の巨大さゆえにまずあり得ないことなのである。

「へえ、そんな話、どこで聞いてきたの?それにPMEタイプの試作ヘリなら、とっくにプレゼントして上げた筈だわよねえ。」

この女帝の妹の雅を通じて、すんなりと供与を受けることが出来たのだ。

「あ、ありがとう、ほんとに助かったよ。あれはあれで大好評だったんで、私もずいぶん株を上げることが出来たんだ。」

「それは良かったわね。」

「だから、あれとは別口でペイロード二百トンとか三百トンとか言う怪物の話だよ。」

この場合のペイロードとは、その怪物とやらの有効搭載量のことであろうが、仮にその話がヘリのことなら、それこそとんでもない数値だと言って良い。

「勘違いしてるわよ。それ、ヘリじゃなくてポッドの筈よ。きっと情報がどっかで曲がっちゃったのね。」

「へええ、ヘリじゃなかったのか。ほんとかい?」

つい、うたぐりぶかい表情をしてしまった。

「おほほほ、別に信じてくれなくてもいいんだけど。」

「いや、信じるから、頼む、教えてくれ。この通りだから。」

目の前の低いテーブルに手をついて深々と頭を下げてしまった。

これも、ワシントンが特別に興味を示している話柄なのである。

「だから、さっきからポッドだって言ってるでしょ。別に隠しておくほどのことでも無いんだから。」

「へええ、でもポッドって、前に、ただの容器だって言ってたよなあ。」

「そうよ。ちょっと変わった倉庫みたいなものだわね。」

「でも、いろんなパターンのポッドが現に自力飛行してるじゃないか。」

「あれは、自力で飛んでるわけじゃないわ。いろんな方法で飛ばしてるのよ。」

「いろんな方法って?」

「うーん、一言や二言じゃ説明出来ないけど。簡単な例で言えば、秋津州の兵士たちが担いで飛ぶとかね。」

「か、担いで・・・」

「別に兵士でなくても同じよね。秋津州には小型の飛行体がいっぱいあるし、例えばだけど、D二とか言うヤツがぴたりと収まるような丈夫なキャノピーを、その倉庫にたくさん取り付けておくとかいろいろあるでしょ。」

「詰まり、頑丈な倉庫に小さな操縦席みたいなのをいっぱい取り付けて、そこにD二がいくつも収まって飛ばしてしまおうって話なのかい?」

「例えばね。」

「ほう、それで、どれくらいのスペックなんだろ?」

それこそが、ワシントンの最も知りたがっていることなのだ。

「これも例えばの話だけど、D二が千機もつけば、自重五トンの倉庫が百トンの荷物を収納していても充分機能する筈だわ。」

「それで、どの程度の飛行スペックなんだい?」

「十メートル角の倉庫に、六十五トンの戦車一式を積んでテストしたらしいけど、平均時速二百キロで三千キロほど飛んで見せたって言ってたわ。」

「じゃ、空気抵抗に配慮したデザインにすればもっとスピードが出る筈だな。」

「でも、戦車に正規の搭乗員が乗ったままで運ぶことを考えると、それ以上の高速は無理なんじゃない?」

「それじゃ、人間も乗せる気か?」

「らしいわよ。」

「ほう、驚いたな。」

「別に驚くほどのことじゃないでしょ。ずっと前に秋津州湖でトムんところのヘリが落ちたけど、あのときの漁船だってその方式で動いてたんだから。」

「うん、その話なら聞いた覚えがあるよ。しかし今度のヤツは、第一、規模が違うだろう。」

「そうかしら。」

「実用価値がまったく違うよ。」

「だからワシントンが目の色を変えてるってわけよね。」

「うん、どうだろう、また今度のも分けてもらえないだろうか?相変わらず図々しいお願いなんだが。」

ワシントンの本音もそこにある。

「あらあら、そんな倉庫みたいなものだけもらったって仕方が無いでしょ。肝心の動力が無いんだから。」

「あ、・・・・」

「D二とかG四なんかは秋津州固有の技術だし、百歩譲ってこれも供与したって、いまのワシントンの能力じゃ使えないじゃないの。」

「そうなんだよなあ。今も必死になって無人兵器を開発してるんだが、秋津州のヤツとは比べ物にならんからなあ。」

「わかったみたいね。」

「うん、倉庫ぐらいなら我が国にも造れるし、・・・・」

「立派な倉庫がたくさん造れる筈よねえ。」

女帝は淡い笑みを浮かべているが、仮に嘲笑われてしまったとしても致し方の無い話なのだ。

「だったら、何で今更そんなもの開発するんだい。無意味じゃないか。」

「別に改まって開発なんかしてないわよ。ただ、少し事情が変わってそう言う運搬手段が大量に必要になっただけよ。」

「ほう、その話、もっと詳しく聞きたいもんだね。」

「簡単よ。丹波の受け入れ作業の過程で、陛下の直轄領が突貫工事の真っ最中だからよ。」

「例の二十パーセントの直轄領の話かい?」

「そう。その中の一部の自治領が独自の予算編成権を求めたのよ。」

タイラーには知る由も無いが、女帝は秋桜のことを言っているのだろう。

「じゃ、独立したいってことか?」

「ま、それに近いわね。」

「陛下はお怒りになっただろう。」

魔王と言う独裁者から見れば一種の反乱には違いない。

「いいえ、ちっとも。逆に自立を支援なさろうとしてらっしゃったくらいだわ。」

「へええ。」

「でも、その自治領の方々が辞退なさったそうよ。」

「ほう。」

「だって、自立とか独立って言うのは、ひとさまから与えられるものじゃないもの。」

「うん。」

「それで今、その方たちはいろいろ苦労してるところなのよ。」

「へええ。」

「だいいち、最低限の経済力すら持てなければ、国家としての統治機構を維持することも出来ないでしょ。」

「そりゃ、そうだ。」

「まあ、その領域の人々が、今回の件で狭い範囲に押し込められるような被害者意識も背後にあって、押し込められる範囲内で独自の国家を樹立したいと願った結果かも知れないわね。」

「詰まり、我々の移住の話しが、丹波の先住民たちにとっては、とんだとばっちりになっちゃったってわけか。」

「そうね、六十五億人もいきなり押しかけて行こうって言うんだから。」

「ところでその先住民って、どんな人たちなんだい?」

「まあ、歴史は浅くても、少なくともトムたちよりは先住権を持ってる人たちだわね。」

「その口振りだと、古来からの先住民じゃなさそうだな。」

「確かに、ネイティブアメリカンほどにはね。」

「ふうむ、相当な人口なのかい?」

「そこまでは未だ判らないわ。」

「え?どう言うことだ?」

「だから、それは、そこで国家を樹立しようとしてる人たちが、自分たちの自己責任で決めることだからよ。」

「と言うことは、ひょっとして反乱者のグループがいくつもあってもめてるって話なのかい?」

「誰も反乱者だなんて言った覚え無いけど。」

「ううん、いまひとつ、ぴんとこないなあ。」

「もっと言えば、反乱者どころか、秋津州と言う国のあり方に強い共感を感じて集まって来てる人たちだと言った方がいいんじゃないかしら。」

「じゃ、うんと最近の話なのかっ?」

「最近ったって、いろいろだから。」

「ふうむ、そうだったのか。」

「今回トムが気にしてる倉庫の話なんかも、それを使ってその人たちの国造りを支援なさるおつもりなんじゃないかしら。とんでもない大工事になっちゃってる筈だから、資材の大規模な運搬手段は不可欠でしょうからね。」

「なるほどねえ。」

タイラーにして見れば、丹波の秋津州帝国の内部では、今しも一大反乱が起きているかのような気分で聞いていたのである。

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  1. 2007/08/09(木) 11:39:32|
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