日本大好きじいさんの落書き帳

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自立国家の建設 084

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さて、近頃の五カ国協議のテーブルには新たに中露二カ国が加わり、新領土に関して、既存の領土面積に比例したかたちでの配分方式をとるべきかどうかで激論が戦わされていた。

日英独仏は既存の領土と人口の多寡を加味した折衷案を主張して譲らず、英国に至っては英連邦の総面積を考慮すべしなどと言い出す始末で、そうなると、オーストラリアとカナダは勿論、かつてはアメリカですらその領域内だったではないかと言う者までいる。

まあ、アメリカ合衆国に関してはあくまでジョークの域を出るものではないにしても、新領土をどれほどの広さで確保するかどうかは、極めて重大な論点であることには違いは無い。

折りも折り、そろそろ復興が成ったと言う少々強引な評価を与えることにより、ワシントンが、急遽中露二カ国にお座敷をかけた理由も自ずと明らかであったろう。

いずれにしても、五カ国協議は七カ国協議となって、見ようによっては「米中露」と「英仏独日」の領土獲得競争と言う様相をていし、その争いはそれこそいつ果てるとも知れない。

最近では、米中露の陣営は、英国を語らって、同じく広大な領土を持つカナダかオーストラリアを加えようと画策していると囁かれる始末で、「アリアドネの糸」を神に求める声が聞かれるのも遠くないと言うものが増え、結局いつかは、若者が介入せざるを得なくなってしまうに違いない。


一方の秋桜においては、委細構わずそれぞれの大規模工事が爆発的な勢いで進捗しており、例の特別製の大型ポッドが縦横無尽に活躍している姿がある。

国井が最初に現地入りしてから未だほんの数日しか経っていないにもかかわらず、国井とその一派が描いた青写真は、少なくとも具体的なデータが書き込まれている分に限ってだけは、最早完成間近だと言って良いほどの状況にあり、全土にわたる詳細な地籍調査図が完成し、それをもとにした地方自治体の分布策定にまで踏み込みつつあるのだ。

無論、その全てが言わば国有地の扱いであり、個人や地方自治体の所有地など未だ一坪も存在しないことから、きたるべき困難な分配作業についても比較的順調に処理が進む筈だと予想されている。

緊急避難用の大規模な集合住宅の建設が各地で開始され、収容可能な所帯数も四千五百万ほどを目処とすると規定した上、大切な生活用水の確保を念頭に大規模な利水事業もその緒に就いたことにより、少なくとも日本の国籍を持つ人々に限っては、最低限の受け入れ態勢が整ったことにはなるのだろう。

各集合住宅付近にはそれぞれに病院施設と小中学校が付属し、各病院施設には先端的な医療器具やふんだんの医薬品が揃い、最悪のケースに備え、都合二百万人ほどの医療要員が秋津州から派遣される目算も立ち、国井はいよいよ次なる行動に移るべく決意を固めている。


二千八年一月十九日。

灯ともしごろになって、銀座の秋津州ビルにひっそりとタクシーを乗り付けた一人の老紳士があった。

ソフト帽を目深に被り、コートの襟元からマフラーを覗かせているその人は、元建設事務次官、現内閣官房副長官の中でも事務担当の職にある相葉幸太郎である。

秋津州ビルと言えば、無論一階にクラブ碧のある建物だが、今日は土曜日のことでもあり、たとえいつまで待ってもその店に灯が灯ることは無い筈だが、ママのみどりだけはいつも通りの和服姿に身を固め、同じく一階の喫茶立川にその姿を見せていた。

無論、こちらの店もみどりにとっては立派な戦場なのである。

この店は初期のうちこそ名目上セルフサービスの形式をとっていたが、今では理恵を店長格に、彼女の女友達ばかりが数人、緩やかなシフトを組んでカウンターに入るようになっているところを見ると、みどりは相変わらず男性店員は一人もおかない方針のようだ。

店内ではヒューマノイドのフロア係りが一段と華やかさを加え続けており、格調ある内装とも相俟って、今では銀座でも有名店の一つに数えられることも多く、いまや立川商事の重要な営業拠点の一つに成長しているほどだ。

しかし、今日はみどりにとっては単なる業務では無い。

先ほどから窓際付近に陣取ってその時を待っていたのであり、官房副長官の到着を見るや一人の女性を伴って素早く迎えに立った。

この女性は、かつてひどくタイラーの気を惹いたことのある吉川桜子であり、相葉にとってはみどり同様に旧知の間柄でもあるらしく、三人とも小声で挨拶を交わしながら揃ってエレベータに乗り込んだ。

ほどなく三階でエレベータから降りた相葉は、国井義人の迎えを受け和やかに談笑しつついざなわれるまま一室に消えたが、ときにあたり国井自身が表まで迎えに出なかったことにも充分な理由があろう。

国井自身はいまや時の人でもあり、階下まで降りてうろうろしていれば物見高いメディアが放っておく筈は無く、すぐに噂の花が咲いてしまうに違いない。

なお、相葉は大泉政権の頃から引き続き現職にあり、当時官房長官を務めていた国井とは職務上においても殊に緊密な間柄にあって、年齢的には相葉の方が一回りほども上ではあったが、互いに深く人格を認め合うほどに濃密な人間関係が保たれていたのだ。

また、国井にとっての相葉は、現在の官邸の中では唯一に近いパイプでもあり、今日は、国井が丹波へ向けて旅立つ直前以来の邂逅でもあった。

二人が入った部屋は、新田等でこぼこコンビの退官騒動の際、揃って職を辞した者たちが集結したところでもあり、相葉自身にしてもかつて何度か訪れたことのある場所でもある。

適度に空調の効いたその部屋は重厚な造りの調度を具え、一見会議室のような造作を持ち、正面には大画面のモニタまで用意されており、そこには吉川桜子の操作によって、さまざまな映像が映し出される仕組みだ。

みどりが相葉のコートを甲斐甲斐しく受け取って隣室に消えたところを見ると、そこは恐らくクロークルームのような扱いになっているのだろう。

彼女が再び現れたときには、その手に簡単な湯茶の用意があり、その後のみどりは同座を遠慮するようにして淑やかに去った。

部屋に残ったのは無論三人だけであり、相葉は短時間のうちに期待を上回るほどの情報に接し、即座に数人の男たちに連絡した結果、やがてその場には多数の人間の集結を見ることになった。

土曜日とは言いながら、既に深更である。

一階の立川は灯を落とし、あたりはほとんど人影もまばらだ。

まして、その顔ぶれが各省庁の事務方のトップばかりで占められていたことから、その光景は、見る者によってはことの重大さを想わせるに充分なものだった筈で、この意味一つとってもその集結は、なおのことひっそりと行われる必要があった筈だ。

結局その非公式会合は夜を徹して続けられ、徐々に参加者を増しつつ、多少の休憩を挟みながら翌日の日曜一杯にまで亘ったのである。

大型のモニタに映し出される貴重な情報は無論丹波に関するものばかりであり、中でも秋桜で進行中の一大イベントの実態が参加者の度肝を抜いたことは確かで、殺到する煩雑な質問にも吉川桜子が常に的確な反応を示し続けた。

そこには一切の観念論や抽象論が入り込む余地は無く、全て具体的なものばかりで満ち溢れていたのである。

漠々たる砂塵を舞い上げながら立ち働く膨大な秋津州兵士の姿があり、なおかつ整斉として大地を走る道路や鉄道網がある。

空港はおろか、多数の港湾があり、発電施設があるのだ。

国井の指し示す青写真では、一年以内に十数個の人工衛星の打ち上げまで予定しており、集結した日本の行政官たちに対しても、この青写真の空白部分にはその手で書き込ませようとしていることは明らかであった。

国井は相葉との打ち合わせ通り、肝心の避難先についてだけは大枠の準備を立派に終えて来た上、なおかつそれに関して具体的なデータまで揃えて来た。

そのデータの中では、秋桜と言う陸地が画然とした四季とともに豊富な地下資源を持つことにも触れられており、殊に石油や鉄鉱石をはじめ、各種レアメタル等の巨大な埋蔵データが示されたときなどは、その場に盛んな拍手が沸いたほどであった。

なお、改めて国井から出された確認事項がある。

そもそも、その島の工事は、新田がその「拝借」を王に願い出た結果初めて実現したもので、新田自身が管理責任者として全ての責めを負う旨の誓約をしていることにも触れたほか、秋桜(こすもす)はあくまで王の直轄領の一部であり、この意味でいかなる第三者も容喙することは出来ないとの認識を強調した。

したがって、その独立性が公式に担保されているわけでも無く、しかも理想は国王陛下の直轄領以外の場所に固有の領土を確保すべきことにまで言及したのだが、実際にはそれが一種の方便に過ぎないことだけは、全員が一致して感じ取っていたことは確かだ。

結局秋桜と言う自治領が、将来完全な予算編成権を持つことについても、いつにその領域で暮らす人々の能力に掛かっているのであり、この場の高級官僚たちからは、それは自分たちの双肩に掛かっているものと受け止められたのも極めて自然なことだったろう。

その後、国王の「日本人自身が日本人であることを見失わないでいさえすれば、例えどんな逆境に落ちても必ず復活することが出来る筈だ。」と言う言葉が紹介されるに及び、出席者たちの秋津州への連帯感が極限にまで高まってしまったのも当然のことだ。

この非公式な事務次官等会議はその後大きな広がりを見せ、次第に地方自治体にまで影響を及ぼし、やがて数次にわたる視察団の派遣にまで発展して行くのである。


二千八年一月二十一日。

この日の新田は、いかに自業自得とは言え、格別慌ただしいときを過ごす羽目になった。

午前中に己れ自身の結婚式を執り行い、なおかつ午後には、土竜庵に大勢の訪客を迎えていたからである。

その訪客とは、新日鐵とJFEの首脳たち一行だ。

周知の通り新日鐵とJFEは日本の鉄鋼産業における二大巨人であり、日本の鉄鋼文明の牽引役として欠かすことの出来ない役割を担っている企業と言って良い。

近頃の彼等は、経産省鉄鋼課から強い示唆を受けたことにより、揃って訪れる運びになったのだ。

尤も、話の様子では、訪客たちの方はむしろ個別の会談を望んでいたもののようだが、土竜庵の主の強い誘導によって已む無く共に行動する運びになったようだ。

無論、その用件も知れているだろう。

経産省鉄鋼課から与えられた示唆によれば、丹波の秋桜と言う新天地には膨大な鉄鉱資源が眠っている上に、近い将来において爆発的な勢いで文明が立ち上がろうとしていると言うのだ。

当然その需要も膨大なものになると見るべきであろう。

確かに、鉄は人類文明の重要な基幹の一つであり、それなくしては人類の文明生活は保つことすら出来ない。

そしてなお、文明は日々大量の鉄を必要としており、これが避けようの無い現実であるからこそ、土竜庵の亭主も自室の掘り炬燵にすすんで招じ入れたのであろうが、訪客たちにして見れば、淑やかに湯茶の接待をする若く美しい女性が、つい先ほど妻となったばかりの文字通りの新妻の身だなどと気付く筈も無かったに違いない。

単にその席で相応の情報と便宜を得たことを以て、途方も無いビジネスチャンスが到来したものと捉えたに過ぎなかったのである。

そしてこの会談ののち、丹波に向けて瞬時に旅立つ機会を得ることによって、充分な余裕を持ってその準備に取り掛かることが出来たことは確かだ。

将来の展開によっては、秋桜の予算編成権を握るとまで囁かれているこの男のもとへは、その後も、日本の鉄道事業者や自動車メーカーを始め、さまざまな業界人が訪れ、やがて秋桜への進出を目指す動きが目に見えて加速することになる。

無論、新田にとっても望むところではある。


また、銀座の秋津州ビルには秋津州財団日本支所と銘打たれた堂々たるオフィスがお目見えし、やはりさまざまな民間企業が盛んに足を運ぶようになった。

その殆どが神宮前から回されて来ている様子であり、その点千代の方もおおわらわであったに違いない。

その後、東京都知事の腹心と見られる者までが顔を出し、秋桜における首都圏の設計には都知事本人が大乗り気であると囁かれる中、何と都心部に壮大な皇居らしきものの造営計画まで練られているとされ、それが定まるに連れ多数の幹線道路についても、その敷設計画が整いつつあるのだと言う。

放射状道路や環状道路は勿論、首都圏を網羅する高速道路網までが詳細に書き加えられて行き、当初国井が作成した青写真が一段と充実を見た。

例の私的な事務次官会議にしても更に回を重ね、新たな立法府や行政府のハコモノに関しても充分に練られた案が登場し、首都圏だけでも新たに複数の発電施設の立地が示されるに至った。

その発電施設にしても、巨大な発電能力を持つPME方式のものばかりであり、なおかつその発電規模から見れば信じがたいほどに小規模な外見でしか無いのである。

電力事業者や鉄道事業者、そして通信事業者たちなどの手になる地下層の図面まで策定が進み、しこうして、国井たちの描く青写真は、国井自身の予想をすら、はるかに上回るスピードでますます完成度を高めて行くに違いない。

しかし、国井の望んだ秋津州による七カ国協議への介入は行われる気配も無い。


また、この頃になると、ぼつぼつ秋津州円の独歩高が目立つようになり、金相場が上昇に転ずる気配を見せ始めており、世界のマーケットにはなにやら不穏な空気が漂い始めていたことも事実だ。

無論、その原因のほとんどはケンタウルスの一件にあると言って良い。

庶民の間にもさまざまな情報が乱れ飛び、中にはかなり真実に近いものも出始めてはいたが、幸いにして株式市場は未だ活況を呈してくれていた。

万一現時点で中途半端な形で情報が流れてしまえば、第一に不動産の資産価値が皆無に等しいものとなってしまい、その極端な値下がり傾向があらわになってしまえば、殊に日本などは金融システムからしてが危ういことになる。

当然それは日本だけの問題に留まる事では無く、瞬時に世界のマーケットに飛び火してしまうことは明らかで、この点一つとっても、七カ国協議に愚劣なせめぎあいを続けている余裕など無い筈なのだ。

一歩間違えれば、世界恐慌どころか、各国が軍の出動を以てしても対応しきれないほどの暴動すら起こりかねないのである。

それどころか、ことがことだけに、肝心の国軍自体の存続までが危ぶまれるほどだ。

流石にこの頃には各国政府の派遣による視察団も銘々丹波入りし、自前の情報を数多く持ち帰りはしたが、かと言って七カ国協議に合意を齎すほど画期的な材料があるわけでも無く、予想通りそれは、事前に秋津州から与えられていた現地情報の正確さを裏付けるものでしか無かった。

しかし、ワシントンなどでは、おろかにも、現時点で確保出来ているハワイ、グアム、沖縄、そしてインド洋のディエゴガルシアなどと同等の海外拠点を要求すべしとする強硬派まで存在し、この分では、各国間に広がる国益の溝が埋められるような状況には無い。


二千八年一月二十七日、新田の行動に刺激を受けたものか、岡部大樹の方も実に慌ただしくダイアンとの挙式を実行した。

周囲のものの目にはそう映るのも当然だが、実際は、新田との合同結婚式を目論んでいたものが、花嫁側の親族の都合によって、已む無く日程をずらさざるを得なかったのが真相だ。

また、若者の了解と協力を得ることによって式場は新田と同様に秋津州神社を用い、特別の披露宴を行わないことについても、これまた新田のケースと同様であった。

この新妻の国王への思慕の情は遂に果たされることは無く、その後さまざまの出来事を経て既に遠い過去のものとなっていたようで、今にして思えば、若者自身が既に婚姻を果たし、岡部が実質的な剣の師匠として颯爽と出現したことにより、その思いが一気に傾いて行った気配が濃厚なのである。

結婚に対する思い入れの深さ一つとっても、どう見ても新婦側の方に高い熱情が感じられると人は言い、常に傍近くにいるメアリーを説得するに際しても、この熱情が大いに功を奏したことは確かなのだ。

ただ、この夫婦は互いに実に多忙である。

無論岡部の多忙さは秋桜の建設に密接に関わることから来ており、新妻にしても大規模な事業に関わっていることも周知のことだ。

まして、今後、岡部の活動拠点は東京に移るのである。

新妻も即座にその拠点を東京に移し、愛する夫をさまざまにサポートして行くことになる筈だ。


一方、NBS支局長のビルは若者の意を受け、新たな戦略的行動に移ろうとしていた。

それは、「王の荘園」について、一次情報を積極的に発信し、前以てその実在性を広く伝えておくことによって、いざと言う場合に備えようとするものであり、当然その戦略が、人類の救済と言う目的を果たすために余程有意義なものに思えたからに他ならない。

もともと「王の荘園」自体が、各方面の興味を引いて已まない対象であって、無論各国のメディアにとっても絶好の標的であり続けて来たと言う経緯がある。

この場合、ビルが手にしたさまざまの映像情報が丹波限定のものであったにせよ、それはそれで彼等の戦略の上からは充分なものだった筈で、これを他のビッグメディアにも積極的に配信することによって、重大戦略を強力に推し進めることにしたに過ぎない。

詰まり、来るべき混乱を最小限に収めるためにも、全人類を収容して余りある能力を持つ新天地が現実に存在することを、世界にアピールしようとしたことになる。

さらに、その新天地は溢れるほどの自然に包まれた「星」であり、清浄無垢の大気をも併せ持ち、なおかつ、既に二十億人の胃の腑を満たしてくれるだけの農産物をも生産しており、その上、見るからに充分な増産の余地があるのである。

若者にしても、やがてケンタウルスの一件が世界の庶民に衝撃を与えることが避けられぬ以上、その衝撃を和らげる方策として最も適切な手段であると信じたからだ。

その後、コーギルを始め、世界の一流と呼ばれるほどの企業の殆どが積極的に協賛し、溢れるほどの資金力に支えられた空前の意識誘導作戦が始まった。

その対象は全世界の民なのだ。

無論、ガンマ線バーストに関しては一切触れられることは無く、その新天地の八十パーセントが人類のために解放されることを以て全てのベースとしている。

従来一切のコマーシャルを打たなかった日本の秋津州商事でさえ、単年度で五兆円に迫る広告予算を組み、三兆円ほどの資金調達を目指すと発表したほどなのだ。

マーケットにおいて、あの若者こそがオーナーだとされている秋津州商事は、本来、マーケットの求めに応じて上場しさえすれば、その株式の時価総額は五百兆円は下るまいとするアナリストもいるほどで、それはエクソンモービル、GE、ガスプロム、マイクロソフトの全てを合わせたそれよりもなお、はるかに巨大なものなのである。

すなわち、その企業は、上場しさえすれば、その程度の資金など軽々と調達し得る評価を受けていることになる。

まして、その方式の場合一切の調達金利は無視してしまって良いのである。

だが、その企業は証券会社の度重なる上場勧誘の誘いにも、相変わらず耳を貸そうともしていないことで知られており、即座に多数の銀行が集結し強固なシンジケートを結成した上で、その巨大な資金需要を満たすべく積極的に動いたのも当然のことだったろう。

何せ、近頃海都に支所を構えたビッグバンクの担当者が、あの若者の重大発言を直接その耳で聞いたのだと言う。

その重大発言の内容とは他でもない。

秋津州商事の債務に対し、全面的な連帯保証を与える用意があると言うのだ。

いまや若者が持つ途方も無い信用力を疑うものはおらず、それを裏側から言えば、この秋津州商事と言う企業が今更有利子負債を抱える意味は無いと言って良い。

ところが、現実に発表された調達方針がこれなのだ。

周辺業界に与えた凄まじいインパクトがあり、当然、その筋ではビッグニュースとなって世界を駆け巡り、世界中の目を惹くことになったのも当然のことだったろう。

そのことこそが、あの魔王の真の目的なのではないかとする向きも少なくはなかったが、その業界に棲む者にとってはビッグチャンスであることに変わりは無い。

無論、世界のビッグバンクのほとんど全てが動いた。

驚くべきことに、銀行団の内部調整の過程で、金利その他の貸付条件ですら紛糾することは無かったと言われ、その結果巨大な信用創造が発生することとなった。

彼らにとって、これ以上の融資先は無かったのである。

これにより、この資金需要が満たされることが一層確実になったことになり、商業メディアが放っておく筈も無い。

何せ、単年度で五兆円もの広告宣伝予算なのだ。

無論、神宮前に殺到したのはメディアだけにとどまらない。

例の便通を初めとする大手広告代理店の全てが参入を望み、やがてさまざまな宣伝用の番組が企画され続々と持ち込まれるまでになった。

その企画のチェックに当たるのは、秋津州商事広報担当と秋津州財団総裁秘書の肩書きを併せ持つ吉川桜子である。

その上彼女を通じて膨大な丹波情報が配布され、その中にはNew海都の近代建築の数々は勿論、その地で幼な子の手を引きながら、のどかに散策する国王の映像までが含まれていて殊更彼等を喜ばせた。

なお、その地では秋津州の円が立派に流通していることについても触れられていたのである。

その結果、溢れんばかりの丹波情報が各国各地で発信され、国王の所有になる荘園の実在性が殊に先進世界においてはあまねく信じられるようになり、途上国においてさえ多くの人々の知るところとなって行った。


さて、秋桜における青写真がいよいよその精密さを増して行くに連れ、国井にとっての政治行動がその優先順位を変えるに至り、その結果日本では総選挙の洗礼を受けることも無く、ごく平和裏の内に政権交代が行われようとしていた。

与党民生党が事実上分裂してしまった上、これまで連立政権に参画していた弱小政党も離脱し、政権そのものの内部崩壊によって内閣が総辞職に追い込まれたからである。

雪崩を打って離脱して行く者たちからすれば、轟々たる非難を浴び続ける大沢政権に留まっていれば、非常な不利益を蒙ることが最早明白になってしまったからだ。

予想されたこととは言え、総理自身がそのあまりの不人気さ故に、解散権を行使しても国民の支持は得られないことを、否応無く自覚させられた結果であるとも言われた。

無論、肝心の予算は未だ通っていよう筈も無い。

国井義人は党総裁ポストの禅譲を受けた上、首班指名においても圧倒的な支持を獲得し、日本国の内閣総理大臣の椅子に着いた。

民生党では、結局衆参ともに四割近くの右派系議員が離党の上結集し、その全てが国井に票を投じたからでもあるが、かと言ってこの票が得られなくとも国井の勝利は動かない。

衆議院においては、新たな入党者が十数名の多くを数えていた民自党が、ようやく過半数を制していたからだ。

無論、参議院においても、同様の動きには甚だしいものがある。

まして、国井個人の人気も相変わらず沸騰しており、メディアも国井の政治的スタンスを積極的に評価しようとするものばかりなのだ。

自然その内閣の持つ政治的求心力は磐石なものとなり、若干の修正を経た予算案を通すに際しても、十分な威力を発揮し得る筈だと評されるほどだ。

党外から三名ほどの入閣を許しはしたが、比較的順調な組閣作業の末、激動の国井内閣が発足した。

官邸内の秋津州対策室も大きく模様替えが行われ、実質的な指揮官である次長職に岡部大樹を据えたことにより、ことは激しく動き始めることになる。

岡部の傍らには無論秋元京子の姿があり、その配下の女性たちも又数多く参加して態勢を整えた。

その最大の任務は、政府がその義務を遂行するにあたり強力にサポートすることにあるが、それこそが来るべき混乱を最小限に食い止め、かつ国民の全てを保護する道にも通じている。

保護する為には、その対象となるべき人々を確実に捕捉しておかなければならないのは言うまでも無いことだが、現実には、個人のプライバシーを守るためと称して、国勢調査すら拒否すべしと主張するヘンな人間が一方にいるのである。

何せ憲法をさえ停止して非常事態宣言を発し、断固として事に当たるべき時が近づいている以上、個人のプライバシーなどより、よほど国民の生命の方を優先すべきことは明らかだろう。

そのためにこそ全力を挙げて「日本人」を特定しておく必要があり、その実行には膨大なG四が緻密なネットワークを結節して当たらざるを得ない。

しかしながら、一方に無残な現実がある。

不法に日本国籍を取得している者や、現に生まれていながら出生届けが提出されていない者、若しくは同一の戸籍を複数の人間が利用しているケースなどなど、事前に手を打つべき課題は溢れるほどに存在しているのだ。

岡部の心積もりでは、収監中の者については、以前にも牛久沼の湖上に配備したことのある巨大な施設を再利用する方針であり、逃亡潜伏中の容疑者に関しても、早速追捕の手を強めるつもりでおり、その上、海外にいる者は無論のこと、住所不定の者についてすら、そのときが来るまで完全に捕捉し続けようと言うのだ。

膨大なG四が活躍することになるのも当然の成り行きであったろう。

まして、その時にも治療中の重症患者や間近に出産を控える妊婦たちなども大量に存在する筈であり、当然それらの者たちにも相応の対応を考慮しておかなければならず、総理としての国井義人が求めているところのものは、全ての「日本人」を救うことにあり、それこそが国家としての最大の責務であるとしている以上、対策室に対しては、獅子奮迅の働きが求められていることだけは間違いないのである。

当然、岡部の激務は延々と続くことになる。

なお、相当の頻度で泊まり込みになる夫のもとへ、身の回り品を運ぶ新妻ダイアンの姿が頻繁に見掛けられるようになったところを見ると、外国人でありながらいまや官邸への出入りさえその自由度を増していると噂された。

国井内閣はとりあえず目の前の予算案を上げることに全力を傾け、一方公式の事務次官等会議においては、相葉幸太郎の指揮の下、新天地の青写真の完成に向けた作業が脱兎の如く突き進んでいたのである。

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  1. 2007/08/13(月) 17:20:23|
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